日立製作所が分子軌道法プログラム2種を外販

研究所内で開発、広範な普及目指す

 1992.05.27−日立製作所は、社内の研究所で開発した分子軌道法プログラム2種を外販する。中央研究所で開発された半経験的分子軌道法の「LEAF」(商品名)と、エネルギー研究所で開発された非経験的分子軌道法/密度汎関数法の「DVX2」(同)で、6月から出荷を開始する。スーパーコンピューターS-3000シリーズにも対応しているが、今回は計算部分のみの製品化なので他機種への移植も容易という。ソフト価格はともに、スーパーコンおよび汎用コンピューター用が180万円。とくに、「LEAF」はワークステーションでも動作でき、しかもソフト価格8万円の低価格を設定。広範な普及が期待される。国産の分子軌道法ソフトが商用化されるのは、日本電気の「AMOSS」に次いで2番目だが、半経験的なタイプや密度汎関数法で商品化されたのは初めて。

 今回の新ソフトは、日立製作所の汎用型分子設計支援システム「MODELMATE」から利用できる理論化学計算プログラムとしての性格ももっている。

 「LEAF」は中央研究所の入江■太郎博士が1986年に考案した新しい分子軌道法理論LEAF(リンケージ・オブ・エンベディッド・アトミック・フィールド)に基づいている。経験的なパラメーターを利用しており、扱える原子数・原子種を大幅に広げることにより、有機低分子だけでなく、無機材料やたん白質までも解析可能とした。対象化合物の3次元座標と電子配置を入力することによって、各原子の電荷、全エネルギー、双極子モーメント、振動子強度などの分子物性値を求めることができる。

 社内では、ガリウム・ヒ素表面におけるトリメチルガリウム分子の反応性予測、フロン分子の光化学反応の予測などの研究で威力を発揮した。

 「LEAF」についてはソースコードを公開するほか、国内の研究者間で化学向けソフトの流通を促進するJCPE(日本化学プログラム交換機構)に登録し、広範に広める計画も検討中だ。

 一方の「DVX2」は、エネルギー研究所の田子一農博士らのグループで7−8年前から開発が進められた密度汎関数法に基づく非経験的な分子軌道法ソフト。スーパーコン向けにベクトル化することによって高速計算を実現しており、とくに金属を含む系に有効。超電導材料の研究に活躍した。

 2種類とも新しい理論計算ソフトだけに、同社では多くの研究者に使ってもらうことでまず評価を問うことを第一にしており、場合によっては他社機種への移植が行われる可能性もある。