TSTが英マトリックスサイエンスのMascotを発売

質量分析データからたん白質を高精度・ハイスループットで同定

 2000.06.13−帝人システムテクノロジー(TST)は、質量分析装置(マス)を利用して未知の試料に含まれるたん白質を同定することができるソフトウエア「Mascot」(マスコット、商品名)を発売した。英マトリックスサイエンス社(ジョン・コットレル社長)が英王立がんセンターと共同で開発したソフトで、ポストゲノム領域のバイオインフォマティクス研究に役立つ。ウィンドウズNT/2000またはLinuxをベースとしたイントラネット環境で利用することができ、サーバーライセンスの価格は1CPU(中央処理装置)当たり200万円。クライアントライセンスはフリーで何人で利用してもかまわない。初年度20ライセンスの販売を見込んでいる。

 Mascotは、パブリックドメインとして知られる「Mowse」の改良型アルゴリズムをベースに製品化されたもの。遺伝子配列が解明された後のポストゲノム研究では、遺伝子の具体的な働きとしてあらわれる各種たん白質の機能解析が焦点になると考えられている。そのためには、ターゲットとなるたん白質の正体をまずつきとめる必要があるわけで、たん白質の同定を正確かつ高速に行うことが重要。現在、質量分析を使ってたん白質を同定する手法が広がっており、Mascotはそのための強力なツールとなる。

 質量分析では、まず基質特異性のある酵素を使ってたん白質を2個以上のアミノ酸でできているペプチドの単位に分割し、そのペプチド混合物を質量分析装置にかけるという手順になる。すると、それに含まれる各ペプチドに対応したスペクトルのピーク値が得られる。Mascotは、そのマススペクトルデータをもとにペプチドおよび拡散配列情報のデータベース(DB)から検索してマッチングさせ、もとのたん白質が何なのかをスコアづけして自動的に推定してくれる。

 単純なマッチングで候補が絞り切れない場合は、高強度イオンのピーク部分を選んでさらにMS/MS分析を行い、それをデータ解析して検索することで高精度にたん白質を同定することができる。また、たん白質やペプチドの既存DBにデータが存在しない場合でも、ゲノムの遺伝子配列データから検索を行う機能があるなど、幅広い適用が可能となっている。

 このように、検索アルゴリズムは“ペプチド・マス・フィンガープリント法”(PMF)、“MS/MSイオンサーチ法”(MIS)、“シーケンス・クエリー法”(SQ)に対応しており、この3つを揃えているプログラムは他にないという。

 検索のもととなるDBはインターネット上に存在するが、MascotはそれらのDBを社内のイントラネットに自動的に取り込むことが可能。大切な研究用データをインターネットに流す必要がないため、研究のセキュリティも保たれる。操作はウェブブラウザーから行えるので誰にでも使いやすいのも特徴。実際に、http://www.matrixscience.comから検索を試してみることができる。

 また、オプションのデーモンプログラムが用意されており、新しいマスデータが測定されたり、DBが更新されたりした時に、自動的にMascotを働かせるような設定が可能。たん白質同定作業の自動化・ハイスループット化にも寄与できる。

 欧米では昨年4月に発売されたが、現在までに100数10ライセンスの出荷実績がある。プラットホームは、ウィンドウズNT/2000およびLinuxをベースに、マイクロソフトのIISやLinux用のアパッチ、ネットスケープのファーストトラックなどのウェブサーバーソフトが必要。ライセンスはサーバー版のみで、クライアントはフリーとなっている。

 TSTでは、たん白質を研究する製薬会社や研究機関などに売り込むほか、質量分析装置に内蔵される形でのOEM供給にも力を入れていく。