富士通がCACheの最新版を開発
MOPAC2000との連携、用途別パッケージを追加
2000.10.27−富士通は、今年の4月に英オックスフォードモレキュラーグループ(OMG)から取得した分子モデリングシステム「CAChe」(商品名)を独自に機能強化し、最新版を11月から全世界で発売すると発表した。富士通の分子軌道法システム「MOPAC2000」との連携機能などが実現されており、分子シミュレーションの精度を高めると同時に、たん白質などの大規模分子系への対応を図った。また、医薬品設計のように用途を絞ったパッケージ製品も展開していく。今年度にCACheファミリー全体で企業・官庁向けに50本、アカデミック向けに100本の販売を見込んでいる。米国市場では、さらにこの2−3倍の販売を目指す。
富士通は、今年の4月にCACheの開発から販売までのすべての権利を取得し、富士通システムビジネスオブアメリカ(FSBA)のオレゴン州ビーバートンの拠点をベースに、最新版の開発を推進してきた。欧州では、富士通九州システムエンジニアリング(FQS)の子会社であるFQSポーランドが販売拠点となっているが、富士通はMOPACを1998年ごろから本格的に欧米市場で販売していることもあって、事業体制はすでにかなり整ってきている。
今回のCACheの最新版は、マッキントッシュ版のバージョン4.5、ウィンドウズ版のバージョン4.4に当たる。もともとはマック版だけだったため、現在でも若干の機能の違いが残っている。ただ、来春のバージョン5.0でバージョンを統一する計画だ。
最大の特徴はMOPAC2000との連携が可能になったこと。これは昨年にリリースされたシステムで、半経験的分子軌道法の定番であるMOPAC97、たん白質などの巨大分子に対応したMOZYME、分子の励起状態を解析できるMOS-Fの3種類のプログラムを統合したもの。CACheで扱えるMOPAC系のプログラムは、これまでは1993年以前のMOPACバージョン6までだったので、ユーザーにとって最新版のMOPAC2000が利用できるメリットは大きい。逆に富士通にとっては、全世界のCACheユーザーにMOPAC2000を売り込むチャンスになる。
とくに、MOZYME法による高速SCF計算ルーチン、アミノ酸配列自動認識機能などを導入しており、たん白質や核酸、高分子材料、分子集合体などの大規模系への対応が可能になった。遷移金属パラメーターが扱えるAM1-dもサポート。MOZYMEでは最大1万原子の計算が可能だが、今回のCACheでは1,000原子に対応できるオプションを提供する。ただし、たん白質対応などのグラフィック機能はまだ整っておらず、来春のバージョン5.0で間に合わせる予定だ。
最新版CAChe(マック版4.5/ウィンドウズ版4.4)の価格は企業・官庁向けが70万円から、アカデミック向け20万円から。旧バージョンからのアップグレードは、企業・官庁31万5,000円から、アカデミック10万円からとなっている。
また、新しい試みとして年間レンタル制度も導入する。企業・官庁向けに1年間の自由使用権を与えるもので、保守料金に少しプラスした程度の価格設定をしているため、初期投資が小さくでき、とりあえず始めてみたいといったユーザーに最適だという。1ライセンスで37万2,000円からだが、契約途中でのバージョンアップはできない。
さて、今回からは製品体系も刷新された。これまでは、入門版の「パーソナルCAChe」、量子力学計算機能を中心にした「Quantum CAChe」、標準パッケージの「CACheワークシステム」(Quantum CAChe+プロジェクトリーダー)、プロジェクトリーダーを持つネットワーククライアントの「CACheサテライト」−の4種類のパッケージがあった。
今回は、これらに加えて「メディシナルCAChe」(Medicinal CAChe)、「アビニシオCAChe」(Ab initio CAChe)、「CACheワークシステムプロ」、「配座探索CAChe」−の4種類が追加される。
Medicinal CACheは医薬品分野をターゲットにしたもので、分子の配座探索(CONFLEX)、分子力場法/分子動力学法(MM2/MM3)、分子軌道法(MOPAC2000)を内蔵し、さらに表形式で計算結果をまとめるプロジェクトリーダーによって、簡単に効率良く多数の計算結果を解析することができる。分子構造のグラフィック表示、化合物の物性計算、反応機構などの予測・解析、QSAR(構造活性相関)まで幅広い応用が可能。ソフト価格は企業・官庁175万円、アカデミック50万円。
Ab initio CACheはMOPAC2000などに加え、密度汎関数法の「DGauss」を標準装備したパッケージで、分子軌道計算をメインにした研究を対象にしている。ソフト価格は企業・官庁210万円、アカデミック60万円。
CACheワークシステムプロは、Ab initio CACheにプロジェクトリーダーを追加したもので、価格は同じく280万円と80万円である。
最後の配座探索CACheは、分子の安定配座を自動的に求めるための各種機能を盛り込んでおり、分子力場法による多次元のエネルギーマップの作成、豊橋技術科学大学で開発された配座空間探索プログラム「CONFLEX」による解析などを行うことができる。分子軌道計算に当たって、質の高い初期座標を発生させることにも役立つ。価格は同じく120万円と35万円。