ライオンとトライポスがバイエルから2,500万ドルのプロジェクト

ケムインフォとバイオインフォの合体目指す

 2000.10.20−独ライオン・バイオサイエンスと米トライポスは、バイオインフォマティクスとケムインフォマティクスを統合した新しい創薬ソリューションの共同開発を目的とした提携を前進させ、独バイエルから2,500万ドルのプロジェクトを受注した。ライオンは今年の2月にトライポスに資本参加することで提携関係を確立したが、今回具体的なプロジェクトが決定したことで、両社の関係は新たな段階に入ったといえそう。バイエル向けに開発するのは、ゲノム情報と化学情報を統合した新薬開発支援システムで、IT(情報技術)を原動力としたバイエルの新しいR&Dプロセスの基盤となるもの。開発中に得られたソフトウエア技術を再販売する権利も確保しており、今後の両社の製品戦略にも弾みがつきそうだ。

 バイエルは1998年からトライポスのシステムを中心にした創薬支援システムを導入・構築してきており、今回のプロジェクトはその延長線上に位置づけられる。コンビナトリアルケミストリー、ハイスループットスクリーニング(HTS)を中心とした“化学”主体の情報と、ゲノム情報の解析に基づく“生物学”主体の情報とを共通のプラットホーム上で統合することが狙いとなっている。それぞれの分野のデータ創製がロボット化/自動化されたことで、化学情報/生物学情報ともに扱うべきデータ量が未曽有の規模に達しており、インフォマティクスシステムの構築と活用が将来の研究開発を左右する重大な要素となってきたためである。

 一方、バイエルは1999年6月にライオンとの間で5年間に1億ドルのプロジェクトも結んでいる。これは、ウルトラハイスループットでバイエルの持つターゲット遺伝子を解析し、500の新しい医薬品ターゲットと70の新しいアノテーションを識別し認証しようというもの。現在までに140以上のたん白質のターゲットを発見しているという。

 今後、こうした遺伝子発現の研究をもとに、選択的な生物活性を示す受容体たん白質側の部位の構造が特定されるようになれば、構造活性相関などの以前からのケムインフォマティクス的なやり方と、新しいバイオインフォマティクスからもたらされた情報がドッキング可能となり、新薬開発プロセスに革命がもたらされると期待されている。今回のプロジェクトもまさにそこを狙っている。

 プロジェクトを統轄するのはライオンで、トライポスの“メタレイヤー”技術を利用して統合的な環境に仕上げていく。ライオンのゲノムデータ統合システム「SRS」がトライポスのケムインフォマティクスのポータルに統合され、HTSのプランニングとデータ解析、構造と活性の相関情報の作成を効率化することで、全体として開発サイクルの時間と費用を削減することにつながるという。

 欧米のコンピューターケミストリーシステム(CCS)ベンダーの基本戦略は、ここへ来てケムインフォマティクスとバイオインフォマティクスの統合の方向に急速に転回しつつあり、今回のライオンとトライポスの同盟のほかに、モレキュラーシミュレーションズ(MSI)/オックスフォードモレキュラーグループ(OMG)/シノプシスを傘下に従えたファーマコピア連合との凌ぎ合いが来年に向けて激しくなりそうだ。