TSTが京大・藤田名誉教授のEMILを国内で販売
ハンガリー・コンピュードラッグ製品として逆上陸
2000.10.26−帝人システムテクノロジー(TST)は、京都大学の藤田稔夫名誉教授らのグループが開発した医農薬開発支援システム「EMIL」(商品名)の販売を開始した。ハンガリーに本社を置くコンピューターケミストリーシステム(CCS)ベンダーであるコンピュードラッグ社から製品化されたもの。既知の医薬および農薬分子の化学構造を分類し、その構造が変転していく系譜を体系化してデータベース(DB)にしているのが特徴で、新薬開発の際により活性の高い構造を示唆してくれるという機能を持つ。ウィンドウズで利用することができ、ソフト価格は75万円。このソフトは1992年に富士通からUNIX版が製品化されたことがあったが、富士通が継続開発から手を引いたため、今回コンピュードラッグ製品として再出発することになったという経緯がある。あらためて全世界での普及が期待されるところだ。
EMILはもともと科学技術庁プロジェクトの関連で開発されたものだが、1985年に発足した「EMIL研究会」(化学・製薬などの国内企業で構成)が中心となって、コアのDBづくりなどを進めてきていた。1992年にその成果を利用する形で富士通が藤田名誉教授とコンサルタント契約を結んで製品化を行い、まずはサン・マイクロシステムズのUNIXワークステーション版が、続いて1994年にSGI版が開発された。しかし、ここ4−5年は販売活動は停滞し、富士通としては継続的な開発の意向を示していなかった。
その一方、1997年にハンガリーのコムジェネックス(コンピュードラッグはコムジェネックスグループのCCS事業会社)がEMIL研究会に参加する形で開発意向を表明し、ウィンドウズ版の開発と製品化を進めてきていた。コムジェネックスは来年以降もEMIL研究会に所属し、さらに機能強化に務めていくことにしている。
さて、今回の「EMIL for Windows」は、コンピュードラッグ製品として10月末から全世界で販売・出荷が開始される予定で、国内では昨年から販売提携しているTSTがビジネスを手がけることになった。
EMILは、現在の医薬や農薬がそれぞれ似通った化学構造から発展したものが多いことに注目して開発された。藤田名誉教授は構造が転換されて活性が高まっていくことを“リードエボリューション”(リード化合物を新規に創出するリードジェネレーション、既存のリード化合物を構造修飾するリードオプティマイゼーションに加えた3番目の考え方)と呼んでおり、その変転のプロセスの過去の実例をDB化したものがEMILということになる。
そうした構造の変化を整理・分類すると、ある種の法則性を見い出すことができるという。EMILではこれを13段階のルールに分けて体系付けて整理しており、現在は1,500−2,000件のデータが登録されている。藤田名誉教授は、「リードエボリューションを実例に則して行うのがEMILであり、研究者が意中の化合物の構造を入力すると、EMILの構造転換エンジンによって、リードエボリューションをどのように行うべきかを予見して示唆してくれる」と説明する。
「人間の記憶力には限界があるので、DB化しておくことによって、知識のもれを防ぐことができる。いわば、こういう場合にはここの部分構造をこうした方がいいのではないかという有機科学者独特の“発想”をシステム化したものだ」とも述べる。
医薬と農薬が一緒に含まれていることに関しては、同じ構造転換のパターンによって心臓病の薬と除草薬が生まれたというケースもあり、医薬の開発に農薬の事例が役立つ場合も多いのだという。