NECが米ガウシアン社と提携しCCS事業で海外進出
MolStudioを全世界で販売、市場に大きなインパクト与える
2002.07.09−NECは、自社開発のコンピューターケミストリーシステム(CCS)製品の海外での販売に初めて乗り出す。米ガウシアン社(本社・ピッツバーグ州、マイケル・フリッシュ社長)と代理店契約を締結し、ガウシアン社のルートで分子モデリングシステム「MolStudio」(モルスタジオ)を販売する。この製品は、ガウシアンが開発している世界的に著名な分子軌道法プログラム「Gaussian」と組み合わせて使うグラフィックソフトであり、ガウシアン社自身が販売を手がけるインパクトは世界的にみても大きい。今後の市場動向が注目されるところだ。
NECのMolStudioは、1997年末から販売されており、最新バージョンとしてリリース3.1が今月の15日から新発売になる。今回、この最新版を世界市場に投入することにした。
MolStudioは、Gaussian94/98に対する入出力処理を担当するグラフィックソフトであり、画面上で分子を対話的にモデリングし、計算条件を設定して入力ファイルを作成、Gaussianをシームレスに起動して計算を実行させ、その結果を受け取ってわかりやすくグラフィック表示する機能を持っている。
最新のR3.1は、昨年7月出荷のR3.0のマイナーバージョンアップ製品で、既存ユーザーは無償バージョンアップの対象となっている。分子力場法MM2を内蔵し、組み立てた分子のエネルギー極小化を簡便に行えるようになったほか、計算結果の数値情報を確認するためのテキスト出力機能を付け加えた。読み込みや表示などの全体的なスピードアップも図られている。
Gaussianは分子の電子状態を量子化学理論に基づいてシミュレーションする非経験的分子軌道法のソフト。最も厳密な分子計算手法として世界中の研究機関で利用されるベストセラーであり、この分野で最も権威のあるソフトの一つだといわれている。しかし、基本的にグラフィック機能を持たないため、MolStudioのような製品と組み合わせて使うケースが多い。ガウシアン社は、純正のグラフィックソフトである「GaussView」も用意しているが、MolStudioとは使い勝手で差があるという。具体的には、GaussViewはウィンドウズクライアントからウィンドウズサーバー上のGaussianを、UNIXクライアントからUNIXサーバー上のGaussianを使うことは容易だが、使用環境が交差している場合は操作性が悪くなるという。これに対して、MolStudioはウィンドウズクライアント上からUNIXおよびウィンドウズのどちらのサーバーに対してもシームレスにアクセスできるのが特徴。
ただ、ガウシアン社としては、現時点ではMolStudioを標準のウィンドウズクライアントに位置づけるというわけではなく、あくまでもユーザーの選択肢を広げるという観点からラインアップに加えたという立場をとっている。そこで注目されるのは価格体系になるだろう。ガウシアン社はウィンドウズ版GaussViewを民間1,000ドル、アカデミック500ドルのリストプライスで販売している。一方のMolStudioの国内価格は民間9万8,000円、アカデミック8万円だが、基本的に販売価格はガウシアン社側が決定することになっている。
いずれにしても、ガウシアン社はNECとの契約のもとに、世界18ヵ国をカバーする38社の販売代理店網を通じてMolStudioを世界市場に供給していく。ガウシアン社の正式な販売ルートに乗ることによって、市場には大きなインパクトを与えることになるだろう。エンドユーザーに与える信頼感・安心感も大きいと思われる。
またNECは、ガウシアン社から技術情報や内部データの開示を受けて今回の英語版を開発してきた。具体的にはR2.0発売後の2000年5月から交渉を開始し、技術情報の提供を受けながら中間バージョンを評価してもらい、改良を重ねてR3.1の開発を進めたという。NECとしては、今後の開発面でも協力が得られやすくなるとみているが、さらに両社の提携関係が幅広く発展する可能性もあるだろう。
なお、NECはMolStudioを今後3年間で世界で1,500本販売する計画。今回の世界進出と最新版R3.1の発売を記念して、国内でも10月末まで2割引キャンペーンを展開する予定であり、この場合の価格は民間7万8,000円、アカデミック6万4,000円となる。