富士通がCACheシリーズの創薬研究用パッケージを製品化
ドッキングシミュレーション機能を搭載、たん白質向け機能を強化
2003.01.28−富士通は、汎用型分子設計支援システム「CAChe」(商品名)の機能と製品体系を拡充し、医薬品開発にターゲットを合わせた新製品3種を開発した。たん白質のアミノ酸シーケンスの表示やたん白質の立体構造解析、医薬候補化合物とのドッキングスタディまで、ライフサイエンス分野で必要な機能を統合しており、計算化学の専門家ではなく、生物系の創薬研究者向けに売り込んでいく。とくに、ここ数年注目を集めているドッキングシミュレーションを同社として初めて製品化したことが最大のポイント。ソフト価格は100万円から。
CACheは、富士通が2000年4月に英オックスフォードモレキュラー(現アクセルリス)から買い取った製品で、現在は富士通アメリカとFQSポーランド(富士通九州システムエンジニアリングの子会社)の両極で開発が続行されている。計算化学や分子モデリングの幅広い機能を網羅した統合製品で、材料開発から薬物設計までの汎用型のシステムとなっている。もともとは、米テクトロニクスの社内システムとして開発されたもので、カラープリンターのトナー開発などに使用された実績がある。
今回の新製品は、医薬品が作用するターゲットたん白質の構造をもとにした薬物設計を行う“ストラクチャーベースドラッグザデザイン”に役立つ機能を新たに開発あるいは組み合わせてパッケージ化したもの。たん白質のアミノ酸配列と、たん白質の三次元グラフィックス、さらに各原子の座標や結合情報、アミノ酸残基、計算結果などのさまざまな数値情報とを連動させてウィンドウ表示することにより、わかりやすい操作で多角的にたん白質への理解を深めることができる。
解析対象をたん白質などの有機分子に絞っているため、内蔵されている分子力場法プログラムも通常のCACheのものとはやや異なっており、水素結合を考慮したパラメーターに改良されている。また、材料系の分子動力学法プログラムとして販売されている「MASPHYC」にAMBERの力場を導入し、たん白質に対応できるようにした「CAChe MASPHYC」も合わせて提供する。
しかし、今回の最大の特徴はドッキングシミュレーション機能を新開発して盛り込んだこと。ターゲットたん白質の立体構造における活性部位に対し、医薬候補化合物の分子構造を次々に当てはめ、その適合性を定量的に評価することができる。この機能のリリースは4月からで、現在のところ技術的詳細は不明な点もあるが、ジェネティックアルゴリズムとグリッドベースを用いた自動ドッキングを行う機能があり、速度重視/精度重視のどちらにも対応できるということだ。また、たん白質の活性部位が不明な場合でも、表面形状を解析し、薬物分子が結合できるスペースを探索する“クレバスマップ”機能も備えている。
商品ラインアップは、アミノ酸配列や立体構造などの表示機能と分子力場計算を中心にした生物研究者向けの「BioCAChe」(100万円、教育機関30万円)、各種解析機能を追加した創薬研究者向けの「BioMed CAChe」(240万円、教育機関70万円)、ドッキンスタディー機能を装備したフル機能の「BioMed CACheアクティブサイト」(350万円、教育機関100万円)、「CAChe MASPHYC」(150万円、教育機関45万円)。それぞれの具体的な製品構成は下表を参照。同社では、CACheシリーズ全体で来年の3月までに世界で1,000本の販売を見込んでいる。