オラクルワールド基調講演:チャールズ・フィリップス執行副社長

エンタープライズグリッドの機が熟す、低価格サーバーで無限の拡張性

 2003.12.18−オラクルワールド東京が17日、東京ビッグサイトで開幕した。初日の基調講演には「Enabling the Grid − The Power of 10」と題し、戦略とマーケティングを担当するチャールズ・フィリップス執行副社長が登壇。オラクルが推進する企業向けグリッドコンピューティングに移行することのメリットを訴えた。後半にはラリー・エリソン会長による講演のビデオ映像も流されたが、強調されたのはハードウエアがサンからインテルへ、OS(基本ソフト)がWindowsからLinuxへというシフトだったといえる。オラクルの思惑通りに進むと、近い将来にコンピューティング環境の大きな変化が訪れる可能性がある。

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 講演の冒頭で、チャールズ副社長は今日の情報システムの3つの課題を指摘した。「第1に断片化されたデータという問題がある。複数のアプリケーションがそれぞれ別々のサーバー上で稼働しているためだ。第2は、過去のいろいろな時代のソリューションが混在して複雑化しており、それを短時間で統合しなければならないという困難な問題を抱えているという点だ。情報がばらばらになっていると、情報の質は落ち、情報を普及させることも難しくなる。その結果、経営上の意思決定の質的低下を引き起こしてしまう。そして第3の課題がコストに対する圧力で、ユーザーは毎年情報コストを引き下げていきたいと願っている」と論じ、「すべての情報を1ヵ所に格納するのがオラクルの考え方である」と強調した。

 さらに、「2つのアーキテクチャーから選択する時がきている。すなわち、ばらばらのシステムの統合を中心とした考え方か、1つのデータベースにまとまった情報を中心とする考え方かのどちらかだ。情報が中心にあれば、すべてのアプリケーションを統合するのはやさしいことであり、オラクルとしてはこのようなコラボレーション型のシステムを提案したい」とした。

 ここで、フィリップス副社長はOracle10gによるグリッドコンピューティングを解決策として示した。同社では、実用化が先行している科学技術分野のグリッドコンピューティングと区別するために、“エンタープライズグリッドコンピューティング”と呼称し、これを「1台の大きなコンピューターの役割をする小さなサーバーの統合利用である」と定義している。

 ビデオの中でエリソン会長は、「現在のアプリケーションの成長はコンピューターのハードウエアの性能向上のスピードを上回る勢いであり、なかには最大規模のコンピューターでも手に負えないアプリケーションも登場している。また、とてもお金がかかるのも問題で、巨大サーバーを次々に買い替えたり、平均3万ドルもするプロセッサーをどんどん追加したりすると、巨額の負担を強いられることになる。そして最大の問題は、どんなサーバーでも故障が起こらない保証はないということである。もし、1台の巨大サーバーがダウンしたら、アプリケーションがダウンし、ユーザーもダウンしてすべてが止まってしまう。これらの諸問題を解決できるのがエンタープライズグリッドコンピューティングである」と説明した。

 つまり、多数の小規模サーバーを束ねて、全体を1つの巨大コンピューターとして稼働・管理させることができるのがOracle10gの技術。フィリップス副社長は、「複数のアプリケーションがグリッド上のどこでも動き、どこからでもデータにアクセスでき、しかも1台のマシンであるかのように管理できる。グリッドコントロールにはRAC(リアルアプリケーションクラスター)の技術を利用しており、各アプリケーションは自動的に余っているキャパシティーに振り分けられる。全体としてのキャパシティーが不足してきたら、必要な時に小さい単位でリソースを追加すればいい。3万ドルのプロセッサーはいらず、3,000ドルの安いもので無限にキャパシティーが増やせる。それに、マシンが1台や2台故障しても、まったく問題なく処理が継続される。さらには、アプリケーションを書き直す必要もない。既存のアプリケーションがそのまま動作する」と特徴を列挙した。

 また、これまでに存在した並列処理システムとの違いについて、「かつての並列システムはアプリケーションを専用に書き換える必要があることがネックだった。われわれはRAC技術でこの問題を解決した。そして、安価なインテル系ブレードサーバーの登場、安価なOSであるLinuxの登場、NASやSANなどのネットワークストレージ技術の登場、高速なインターコネクトなど、すべての要素がいままさに揃い、エンタープライズグリッドコンピューティングを実現する機が熟したといえる」とフィリップス副社長。今後もさらにOracle10gによるグリッド環境を強化し、統合化と標準化、自動化を進めていくと述べて講演を締めくくった。