米リアクション・デザイン:エレン・ミークス開発担当副社長インタビュー
世界で唯一の化学反応解析ソフト、燃料電池やナノテクなどの新分野に応用拡大
2003.11.19−米リアクション・デザイン社は、燃焼やCVD(化学的気相蒸着)プロセスなど、複雑な化学反応機構をモデル化しシミュレーションできる「CHEMKIN」(商品名)を開発している。気相反応/表面反応専門シミュレーターとして世界でも唯一の製品だといわれ、350−400の企業や研究機関で利用されている。主なユーザーは半導体メーカーや自動車メーカー、大学などであり、日本での導入事例が約100件と多いのが特徴である。「日本においては、燃料電池やカーボンナノチューブなど新しいアプリケーションへの適用を期待したい」と述べるエレン・ミークス開発担当副社長に製品戦略を聞いた。
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CHEMKINは、1980年代前半に米サンディア国立研究所で開発されたソフトで、リアクション・デザイン社によって1997年に商用化された。もともとは燃焼現象を扱うソフトであり、一次元の火炎伝播モデルなどを用いてガソリンの燃焼反応や着火のメカニズムの研究などに利用されていた。
現在、工業レベルで実用化されているのは多数の素反応からなる複雑な反応系であり、化学反応だけでなく反応場における物質の拡散や熱伝導などの輸送現象を考慮に入れる必要がある。300種類の化学種の物性データベースを用意し、実際の反応系を解析できるように拡張したのがいまのCHEMKIN。とくに、「半導体分野でプラズマCVDプロセスが普及するようになって、CHEMKINの産業界での応用が急速に広がった」という。
ミークス副社長は「ソフトの機能を深いところまで使いこなすのは米国のユーザーがうまいが、日本のユーザーは長期的な視野で基礎理論を研究することに関心があり、いろいろな用途に挑戦しようという積極性がある」と話す。その意味で、新用途として期待しているのが自動車排ガス処理の分野だ。「今後は、そもそも炭化水素を排出しない燃焼の仕方を研究することが重要になる」としている。また、「新しい燃料への対応も大きな課題で、性能や安全性を検証するためにはシミュレーション技術が重要性を帯びる」とも。
CHEMKINは、詳細な反応機構に基づく反応解析を行うことができるため、従来の経験的な総括反応速度式をベースにした反応工学モデルでは対応できなかった問題の解決を可能にする。とくに燃料電池では、メタノールなどから触媒反応によって水素を取り出す改質器内部での複雑な物理・化学的現象をシミュレーションで可視化するなど、構成材料や構造、化学反応、安全性、発電システムの最適化など総合的な研究活動の前進に寄与できるという。
CHEMKINの現在のバージョンは3.7だが、来年の3月末には新しい4.0がリリースされる。ミークス副社長は「グラフィックユーザーインターフェースが一新され、反応器のネットワークなどもアイコンをつなぎ合わせるだけで簡単に記述できるようになる。ガスの組成や流量が時間に応じて変化する系に対応できるのはもともとの特徴だが、反応器内に異なる組成のガスをパルス状に注入するなどの時間依存型の複雑な条件設定も可能になった。反応器内部の質量の移動だけでなく、熱移動を考慮できるようになったことは燃料電池分野で注目されると思う」と説明する。
さらに、国内ユーザーの関心を集めそうなのが現在開発中の“スス生成モデル”だという。気相中でガスが凝縮してススを形成するプロセスをシミュレーションするもので、CVD装置内部でのパーティクル生成などの問題に応用できるほか、「ススをナノパーティクルだととらえれば、ナノテクノロジー分野の材料開発にも利用できる」という。「日本では、すでにカーボンナノチューブの生成のシミュレーションに取り組んだ研究事例もあり、この分野の進展に期待している」と述べた。
なお、国内でのソフト販売に関しては、代理店のシーディー・アダプコ・ジャパン(横浜市西区)が一手に行っている。