NECと日本化薬が新規がん治療薬の候補物質を発見
インシリコスクリーニングで達成、結合状態の精密な評価を高速に実施
2004.08.26−NECと日本化薬は25日、2002年より推進していた共同研究の成果として、新しいがん治療薬の候補化合物の発見に成功したと発表した。約140万化合物のバーチャルライブラリーを用いたインシリコスクリーニングによって数100の候補を選び出し、実験によって創薬ターゲットに対する結合性を評価した結果、数10個程度の有望な候補を絞り込むことができたもの。日本化薬がこの成果をベースに新規がん治療薬の開発を進める一方、NECは来年度をめどに今回のシステムを製品化し、創薬支援事業に結びつけていく。
今回の共同研究は、インシリコでのドッキングシミュレーション、スクリーニングシステムを開発するとともに、実際の新規がん治療薬の候補物質探索を同時並行的に進めたもの。
具体的には、溶媒中のたん白質と化合物の結合予測を高速・高精度に行うため、溶媒効果をあらわすポアソン・ボルツマン方程式を分子動力学法(MD)と融合させたMM-PB(モレキュラーメカニクス−ポアソン・ボルツマン)法を開発し、PCクラスターなどの並列コンピューター上で動作するシミュレーションソフトウエアをつくり上げた。また、このソフトを市販の自動ドッキングソフトと連携させ、標的たん白質と医薬候補化合物の結合構造と結合能をハイスループットで予測することに成功した。同社では、このシステム全体をインシリコ創薬スクリーニングシステムのプロトタイプと位置づけており、将来の商用版のベースにしていく。
とくに、標的たん白質と医薬候補化合物とのクラスター状態の結合能を評価する際に溶媒効果を取り入れていることがポイント。ポアソン・ボルツマン法を利用して周囲の水分子を連続誘電体とみなし、クラスター構造に働く静電力をメッシュ上の多数の格子状で近似(差分)している。この計算処理を高速に行う新しいアルゴリズムを開発して盛り込んでおり、大量の化合物を扱うのに適している。
また、ドッキングシミュレーションでの評価は市販のソフトを組み合わせて利用することが可能。複数の市販ソフトを前段階として利用し、スコアの高い候補を選んでから、今回のシステムで構造や結合能を精密に評価するのがリーズナブルな使い方になるという。
共同研究では、140万化合物からのスクリーニングを実施し、絞り込んだ数100化合物を日本化薬側で実際に実験にかけて、結合の強さを評価した。現在、数10個程度の化合物について標的たん白質との結合が確認されており、日本化薬はこれらをリード化合物として構造修飾や薬効評価を進め、臨床応用に向けて安全性などの確認にも入っていく。また、今回のシステムを創薬研究のためのIT基盤と位置づけ、今後の研究開発に活用していく。