FSISの統合プラットホームグループがPseWB2.0を公開
タスクフロー機能で解析シナリオを共有、流体・構造などの大規模連成問題に威力
2004.09.07−文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウエアの開発」(FSIS)プロジェクトの統合プラットホームグループは、流体解析と構造解析などの異なる解析機能を連携させ、複雑な工学的問題を効率良く解くことができる「PseWB2.0」の公開を開始した。解析の手順をシナリオとして記述し、それを保存・再利用することで、高度な解析ノウハウを共有することが可能。FSIS内の他グループが開発中の次世代流体解析システム「FrontFlow」や次世代構造解析システム「NEXST」に対応させており、産業機械の設計や医用画像シミュレーションなどに応用した事例がある。システムはFSISのホームページ(http://www.fsis.iis.u-tokyo.ac.jp)から誰でもダウンロードできる。
FSISプロジェクトは2006年度を最終年度とし、「次世代量子化学計算」、「たん白質−化学物質相互作用解析システム」、「ナノシミュレーション」、「次世代流体解析」、「次世代構造解析」、「HPCミドルウエア」、「統合プラットホーム」−の7グループが開発を進めてきている。
今回の統合プラットホームグループが手がけているシステムは「PSE」(Problem Solving Environment、問題解決環境)と呼ばれ、多様なソフトウエア/ライブラリー/データベースなどを自由に駆使できる科学技術シミュレーションのための統合環境を実現するもの。最近では、シミュレーション技術の高度化により大規模で複雑な工学的問題にもアプローチ可能となってきているが、一方で技術の専門化・細分化も進行したため、解析技術者には幅広い分野のノウハウを身につけなければならないという負担が生じている。そこで、複数の解析技術を組み合わせる連成問題に焦点を当てるかたちで今回のPseWBが開発された。
PseWBの最大の特徴は“タスクフロー機能”で、アプリケーションやデータベースを一つのタスクとして定義し、各タスク間をグラフィカルに結びつけることにより、解析の手順をシナリオとして作成することが可能。タスク間には条件判定や繰り返しなどを定義することができるので、複数のアプリケーションを連携させる連成問題にも柔軟に適応できる。タスクの流れを途中で停止させたり、途中のデータを取り出したあとに再実行させたりすることも可能。作成したタスクフローはXML形式で保存・再利用が自由に行える。
実証研究として、火力発電所のボイラー給水ポンプの騒音解析を行った事例がある。この場合は、まず流体解析でポンプ内部の流れによる騒音を解析したあと、ケーシングにおける音の伝播を構造解析によって行い、2つのアプリケーションの解析結果を連成させてポンプの騒音を低減させることに成功した。また医用画像シミュレーションへの応用事例では、核磁気共鳴画像診断装置(MRI)データから血管の形状情報を抽出し、血管ネットワークを三次元モデリングし、そこに血流を流すシミュレーション(流体解析)を行った。流体力に起因する血管障害のリスク評価や血栓の予測、血管バイパス手術などによる影響予測などに利用できたという。これらの事例から、PseWBのタスクフロー機能の利点として、解析者によるばらつきが低減することでの信頼性向上、繰り返し解析が容易になることで統計的な解析が実現することなどが確認できたという。
実際の連成解析には、異なるアプリケーションのデータ項目を関連づけるマッピング処理が必要。例えば、先の給水ポンプの例では流体解析によって計算された圧力脈動を構造解析の力学的境界条件として設定しなければならない。 PseWBではこれを“カップラー機能”として実装しており、そのためにFSISのHPCミドルウエアグループの開発成果を利用している。今後もさらにカップラー開発支援環境を強化していく方針である。