2005年春季CCS特集:総論

バイオインフォ市場は失速、利用者層の広がり・教育用途での大量導入も

 2005.06.27−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、新薬や新材料の研究開発を支援する総合的なソフトウエア技術として広く発展してきており、シミュレーションによって分子や材料の特性を解析する計算化学/分子モデリング、データベース(DB)を中心とした広範なアプリケーション構築やコンテンツ利用を可能にするケムインフォマティクス、生命科学分野の幅広い研究活動を支援するバイオインフォマティクス−といった領域で多種多様なシステムが市場をにぎわしている。ただ、化学現象/生命現象はいまだ十分な理論的解明が進んでいない未踏領域でもあり、今後はとくにライフサイエンスやナノテクノロジー領域での目覚ましい飛躍が期待されている。引き続きさまざまなシステム開発、新技術開発が求められるとともに、広がる用途やユーザー層に合わせた製品企画も重要になりそうだ。

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 2004年度の国内CCS市場は、CCSnewsの推定で約387億円で、前年度に対して7−8%ダウンしたとみられる。これは、CCS分野のパッケージベンダー各社の事業実績をベースに推計したもので、これらのベンダーが納入したハードウエアやシステムインテグレーション(SI)の売り上げは一部含まれているが、ハードベンダーが納入したサーバーやストレージ、ウェット系の技術を中心としたバイオベンチャーのサービスなどは含んでいない。

 昨年の市場が落ち込んだ最大の原因は、バイオインフォ市場が急速にしぼんでしまったことにある。ここ1−2年も伸びの鈍化があり、兆候はみられたが、どうやら失速が確実になった。今年度からは多くのバイオインフォ系ベンダーが事業の見直しに入り、事業戦略的にも後退ムードが漂っている。単にブームに乗って市場参入したベンダーは一昨年くらいまでにほとんど撤退してしまっているが、かなり地力のあるベンダーでも窮地に陥ってしまったのが現状だろう。

 やはり、国家プロジェクトに依存した事業形態だったことが現状を招いたわけで、今後は各社それぞれの得意技術を生かしたかたちで事業の建て直しが図られると思われる。

 一方で、分子モデリングやケムインフォ市場はゆるやかながら着実な伸びをみせている。ただ、ユーザー企業の投資に対する目はますます厳しくなっており、システムの導入効果を正確に見極めようとする傾向が強まっている。このため、ベンダー側では、自社のソフトを用いて計算や解析の受託サービスを行うところが増えてきている。単純な受託計算からコンサルティングや共同研究がともなうスタイルまでさまざまだが、かなりのユーザーニーズが生じはじめているようだ。

 また、利用者の層が、以前の計算の専門家から実験科学者などへと広がりをみせているのも顕著な傾向である。さらに進んで、大学などの教育用にCCSを導入する動きもこの数年で急速に広がってきた。数10本単位での引き合いが増え、教育用ライセンスを新たに用意するベンダーも出てきた。

 それらにともない、CCSの操作は英語が当たり前だったが、日本語化に取り組むベンダーも多くなっている。同時に、ていねいなチュートリアルや初心者向けの解説書を用意するなどの動きも目立ってきている。

 CCS市場は一種の転換点に差しかかっているともいえそうだが、ここをうまく乗り越えれば市場性も大きく広がりそうな予感はある。