CCS特集2006年春:総論 多面的な事業展開でR&D総合支援
バイオインフォは不振、高速計算環境で盛り上がるシミュレーション、電子実験ノート市場に期待
2006.06.30−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、新薬開発や材料研究を合理的な手法で推進するための、またさまざまな情報共有やワークフローを通して研究業務を効率化させるためのツールとして、目覚ましい発展をみせている。PCクラスターなど高速な計算機環境が比較的容易に入手できるようになったため、大きな系に対する分子シミュレーションの需要が盛り上がってきていることに加え、電子実験ノートブックといった業務改善に直結するシステムに注目が集まっている。一方で、具体的に新薬開発の段階で利用される海外の受託試験機関の窓口業務を手がけるベンダーが増えてきていることも最近の目立った傾向だ。ベンダー各社は、ハード・ソフトから、ウェット系と呼ばれる受託試験分野まで、多面的な事業展開で化学・医薬産業のR&Dを総合支援しようとしている。
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CCSnewsでは、毎回のCCS特集に合わせて、主要ベンダー各社の売り上げの推移をもとにしたCCS市場動向を調べている。それによると、2005年度の国内CCS市場規模は約380億円で、前年度に対し2−3%の減少だったとみられる。
2年連続のマイナスとなったが、大きな要因はバイオインフォマティクス市場の不振。バイオ系の国家プロジェクトの終了を受け、2004年度に大きく落ち込んだが、その傾向は2005年度も継続した。バイオインフォ分野は自社製品を持つ専門ベンダーが多いので、かなり苦しい状況に追い込まれている。ブーム以前の体制に戻して地道に事業継続するか、他の領域にソリューションを広げるか、各社それぞれの判断が注目される。
それに対し、輸入システムを扱う商社系のベンダーは、事業の軸足を好調な情報化学系や計算化学系のシステムに移したり、顧客ニーズにこたえてウェット系のサービスを手がけたりするかたちで難局を乗り越えてきた。
そもそも、生命現象や化学現象はいまだ科学的に解明されていない部分が多く、コンピューター利用そのものに発展的な余地が大きい。1990年代まで多く存在したかつての国産CCS製品もこの壁に敗れて消えていったもので、自社開発に取り組む場合には長期的に事業を継続することが必要条件になるという意味で、CCS事業の難しさがある。
ただ、計算化学に根強い需要と期待があることも事実。この10年でコンピューターの性能は1,000倍になり、未踏領域のシミュレーションが可能になってきたからだ。CCSでは、現実の現象と数学モデルとのギャップが一般的な工学的問題よりもはるかに大きいため、まだまだ力不足なのが実情だが、理論化学の押し上げでその差を少しずつ埋めていく努力が必要だろう。その意味では、計算化学系のシステムは安定した成長を示していくはずだ。
しかしながら、計算ですべてが解明できる日が来なければCCS市場が本物にならないというわけでもない。いまや、CCSが活躍する局面は広く、現状の計算レベルでも実験科学者に指針となる情報を与えることはできるし、事実そうしたユーザーの裾野の広がりがみられている。また、情報系のシステムがR&Dの業務改善を実現する手段として注目されつつある。
とくに、今年以降に普及が期待されるのが電子実験ノートブックの市場だ。有機合成などを行う実験化学者がつける紙の実験ノートを電子化したもので、古い言葉でいえば実験現場のOA化である。情報共有が促進され、ワークフローによる業務改善が可能になることが特徴だが、e文書法といった電子化の世界的な流れにもマッチしている。うまく導入できれば、コスト削減効果も大きいということだ。
また、近年ではあらゆる分野で情報の重要性が叫ばれているが、CCS市場でもこのところデータベースサービスへの注目が高まっている。この分野を得意とするベンダー各社の事業も好調だが、この分野でもやはりデータベースを定期的に更新していく長期的視野や、サービスの付加価値を高めていく工夫が重要となる。
これからもCCS市場は、化学・医薬業界の研究開発の先端ニーズに柔軟にこたえるかたちで、いろいろな異なる顔をみせながら継続的に発展していくことだろう。