理化学研究所が分子動力学計算専用機を開発

理論性能1ペタFLOPSを実現、日本SGIとインテルが協力

 2006.06.20−理化学研究所は19日、日本SGIおよびインテルの協力を受け、1ペタFLOPS(1秒間に1,000兆回の浮動小数点演算)の性能を持つ分子動力学(MD)計算専用の「MDGRAPE-3システム」を構築したと発表した。約4,800個の独自のMD計算専用LSIを搭載し、大規模なPCクラスターを組み合わせた構成。MD計算専用ではあるが、既存の最高速スーパーコンピューターと比べて3倍の理論ピーク性能を達成している。たん白質のシミュレーションを通じて新薬開発に役立てていくことにしている。

 今回のシステムは、専用LSIである「MDGRAPE-3チップ」を24個搭載したユニット201台に、インテルの最新のデンプシーコアを採用したデュアルコアジーオンプロセッサーを256個搭載した並列サーバー64台、さらにジーオンプロセッサー(3.2GHz)を74個搭載した並列サーバー37台を接続した構成。理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センターのシステム情報生物学研究グループ高速分子シミュレーション研究チームの泰地真弘人チームリーダーのもと、日本SGIが共同研究に基づくシステム構築を行い、インテルが新型プロセッサーの早期提供および技術支援を実施したもの。

 心臓部のMDGRAPE-3チップは2004年度に開発されたもので、LSI自体の製造は日立製作所、システムボードの製作は東京エレクトロンデバイスが担当した。MD計算を高速に実行するために独自の“ブロードキャストメモリーアーキテクチャー”を実装。一度にメモリーから読み出したデータを使っていくつもの計算を並列に行う手法で、MDGRAPE-3チップでは1個のLSIで同時に720演算を同時実行することができる。MD計算以外では、遺伝子配列の解析や密行列の計算、境界要素法計算などにも応用が可能だという。

 今回構築したMDGRAPE-3システムでは、この専用チップを4,808個(実際には4,824個が実装されているが、そのうちの16個が不良。ただ不良チップが混在してもそれを切り離して正しく動作する)搭載しているが、システム全体の消費電力は最大200キロワットと低く、大きさも22ラック分とコンパクトに収まった。製作費要は総額で約10億円であり、いわゆるスーパーコンピューターに比べて非常に低コストであることが特徴だ。

 実際、現在のスーパーコンピューターランキングの第1位はIBMが開発したBlueGene/L(開発費は数億ドルといわれる)で、360テラFLOPSの性能がある。MDGRAPE-3は、ランキングをとるためのLinpackベンチマークを実行できないため直接の比較は難しいが、単純な理論性能だけの比較なら三倍近くに相当する性能を引き出していることになるという。

 具体的なアプリケーションとしては、医薬化合物と標的たん白質との結合のしやすさをMDシミュレーションで高精度に予測する研究の実証を行っている。また、たん白質の動きや働きを十分に計算することにより、病気を引き起こす原因を原子レベルで調べたり、生物の知恵に学んだナノマシン開発などにも貢献できると期待している。

 将来的には商用化も検討されており、広く使われているMDソフトであるAMBERやCHARMMなどを移植することにも取り組んでいく。