富士通が材料系CCS製品群のロードマップを公表

2008年度に統合プラットホーム製品を開発、サポート充実で事業体制強化

 2007.05.19−富士通は、材料開発向けコンピューターケミストリーシステム(CCS)製品群の2008年度に向けてのロードマップを明らかにした。現行製品のバージョンアップを段階的に実施するとともに、2008年度を目標に新しい統合製品を開発。各種の計算理論を取り込んで一元的に利用できるようにする統合プラットホームを構築し、原子・分子スケールからメソ領域までをシームレスにカバーする材料設計環境を実現する。これら製品面に加えてサポート・サービスの充実もあらためて図り、CCS事業の発展を目指していく。

 同社は17日に千葉市の幕張システムラボラトリで「富士通計算化学ユーザーフォーラム」を開いた。計算化学を中心にした材料系製品群のユーザー会として開催され、約110名の参加者を集めた。

 フォーラムでは、山口大学工学部の堀憲次教授、首都大学東京・大学院理工学研究科の真庭豊教授、高知工科大学マテリアルデザインセンター長の山本哲也教授による招待講演、富士通研究所の金田千穂子氏、旭硝子・中央研究所の山本博志氏の事例紹介などが行われた。併設されたデモコーナーや個別相談コーナーも盛況だった。

 今回の製品計画はこのフォーラムの中で明らかにされたもの。独自のCCS製品を多数擁する国産ベンダーとして、今後は開発の計画やロードマップをきちんと示した上で、ユーザーのフィードバックを得ながら製品づくりを進める姿勢を明確にしたいということだ。

 さて、個々の製品のロードマップを下表にまとめた。独自の分子動力学法(MD)プログラムをベースにした材料設計支援システム「MaterialsExplorer」(マテリアルズエクスプローラー)は来年1月にバージョン5.0をリリースする。液晶・半導体・高分子への対応強化が焦点で、液晶ビルダーの強化、デンドリマービルダーが追加されるほか、シリコンを扱うのに有効な可変電荷ポテンシャルにも対応する。また、新しく予測できる物性として、高分子系の応力計算、粘性係数、分子系の熱伝導率(セラミックス系はすでに対応済み)などをサポートする。

 長年CACheの製品名で親しまれた「ScigressExplorer」(サイグレスエクスプローラー)は、今年の6月にバージョン7.6、12月に同7.7と矢継ぎ早のリリースを図る。計算エンジンをLinuxサーバー上などで稼働できるようにすることが大きな変更点で、とくに半経験的分子軌道法のMOPACは並列化対応がなされることにより、PCクラスターでの利用も可能となる。バージョン7.7では、密度汎関数法として、DGaussとは別の計算エンジンを新たにサポートする計画となっている。

 有機合成経路探索支援システムの「SynthPath Explorer」(シンセパスエクスプローラー)は、今年の9月にバージョン1.5をリリース。現在2,000件の反応情報を収録している知識ベースを4,000件に倍増させ、探索能力の向上を図る。カルボン酸および誘導体、リン酸エステル、炭化水素、ハロゲン化物のほか、クロム酸、マンガン化合物、四酸化オスミウムなどの合成酸化反応を増やす予定。1年後の来年9月にはバージョン2.0にアップする計画だが、そこでは反応データベースをRDファイル形式で読み込んで知識ベースに変換するツールを機能強化し、2倍以上の処理速度向上を図るとしている。

 MOPACとWinMOPACに関しては、開発者のJ・P・スチュワート博士とのコンサルタント契約が終了したため、今後は富士通独自での機能拡張を進めていくことになる。今年度いっぱいは開発に専念し、来年6月をめどに新バージョンをリリースする予定である。構造最適化の速度向上(約1.3倍)、NDDO法の拡張による精度向上(生成熱の平均絶対誤差を25%改善)などをターゲットにしていく。

 一方、これらに加えて注目されるのが統合製品へ向けての構想だ。国内あるいは海外のアカデミックで開発された先進的な計算エンジンを柔軟に取り込むためのプラグインアーキテクチャーを採用し、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)を公開することでプラットホームを統一する。MOPACなどの既存計算エンジンもこの環境に組み込むが、現在のラインアップで欠けている第一原理的なエンジンの補完に力を入れる。このとき、アカデミックコードは使いやすさが考慮されていない場合が多いため、プラグインで組み込むと同時に、技術コンサルティングやカスタマイズなど、使いこなすためのサービス・サポートも合わせて提供できるようにする。

 2008年度にバージョン1をリリースし、プラグインなどの基本的な枠組みを固めて分子とバルクの両方が扱える計算環境を構築する。2009年度リリース予定のバージョン2では、古典力学から第一原理計算までのエンジン群をそろえ、大規模並列計算に対応できるようにすることで、ミクロスケールからメソスケールまでの統一的なシミュレーション環境を実現させたいということだ。

 なお、事業体制としては、6月から専門のサポートセンターを設置するなど、保守契約のためのサポートプログラムを充実させる。専任スタッフによる対応ですべてが迅速化されるほか、保守契約ユーザーは定期講習会への無料参加が可能などのメリットを明確に打ち出していく。この定期講習会は、マテリアルズエクスプローラーで5コース、サイグレスエクスプローラーで2コースを常設し、東京・大阪で順次開催するもの。費用は、保守契約をしていない一般ユーザーはコース当たり5万2,500円(大学2万6,250円)となる。

自社開発製品のロードマップ


資料:富士通

  1Q 2Q 3Q 4Q 2008年度
MaterialsExplorer         1月 V5.0リリース   
ScigressExplorer 6月 V7.6リリース    12月 V7.7リリース      
SynthPathExplorer    9月 V1.5リリース       9月 V2.0リリース
WinMOPAC          6月 新バージョンリリース
MOPAC          6月 新バージョンリリース