新会社ビヨンド・コンピューティングがMolWorks事業を継承
グリッド基盤サービスに組み込み、2009年度に有償版を本格発売
2007.08.08−新会社、ビヨンド・コンピューティング(本社・茨城県つくば市、西克也代表取締役)が設立され、ベストシステムズから分子設計支援システム「MolWorks」に関する事業を引き継いだ。現在は無償のフリー版として提供されているが、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の全面改良、グリッドコンピューティング環境への対応を図り、2009年度から有償版の販売を本格的に開始し、収益力のある事業に発展させる。
同社は、トライアイズ(旧ドリームテクノロジーズ)の子会社であるベストシステムズから、グリッドコンピューティング事業がスピンアウトするかたちで設立されたベンダー。今年の6月21日付で発足しており、ベストシステムズとはビジネスパートナーの関係を保つものの、資本関係はない。西代表取締役も、ベストシステムズの代表を退任している。
今回、自社製品のMolWorks、およびハンガリーのコンピュードラッグ製品を中心としたコンピューターケミストリーシステム(CCS)関連事業もビヨンドに移管されたが、これはグリッドを基盤とした将来の仮想データセンター事業構想にCCSがアプリケーションとして組み込まれているため。
同社が目指す仮想データセンターは、自分では計算機資源を保有せず、外部の資源提供者から資源を集めて、それを利用者に対して提供できるように仲介することを主な業務とする。資源を貸す人と借りる人は、相互に相手のことを知ることはない。一般のデータセンター事業者が持つ余剰設備や企業内の教育・研修用などに使われるパソコン資産を利用することが考えられるという。
具体的なビジネスプランとしては、4段階に分けて事業の発展を計画している。まずは、データストレージサービスで、バックアップ向けの「Ez-DR」の名称でサービスを提供中。グリッド環境にデータが保管されるので、災害発生時などでも大切なデータが安全に守られる。広域分散ファイルシステムを用い、イントラネット環境で社内の余剰ディスク領域をバックアップに利用できるようにするサービスも計画している。
第2段階はグリッドASP(アプリケーションサービスプロバイダー)事業。アプリケーション付きで計算能力を提供するもので、1年ほど前から三井化学との間で実証実験を進めている。分子軌道法ソフトのGaussianをグリッド環境で使用しているもの。この使い方は米ガウシアン社も許可しており、その前提としてビヨンドと三井化学の双方がGaussianのサイトライセンスを取得している。さらに実証実験を通して料金モデルの検討などを行っていく。その他、グリッド環境で使用許可を得ているアプリケーションとして、設計最適化ソフトのiSIGHT(エンジニアスジャパン)、流体解析ソフトのRFLOW(アールフロー)、電子デバイス設計のCadence(日本ケイデンス)がある。
次に、第3段階として計画しているのがバーチャルホスティング事業。現在、一般のデータセンター事業者でホスティングを依頼すると、専用の設備が用意されるので、初期投資が大きくなり、またある程度長期間の契約にならざるを得ない。バーチャルホスティングでは、利用者がCPUやメモリー、ディスク、OS、アプリケーションを自由に選定し、時間単位で使用することが可能。OSのバージョンアップの際の動作検証など、短期的な用途に便利に役立てられるという。
最終構想の第4段階「仮想データセンター」は、これを一歩推し進めて、本格的な業務運用に耐えられる拡張性と信頼性を備え、完全なユーティリティー型のコンピューティング環境を実現する。
さて、MolWorksについてだが、これは分子設計のためのビルダーを持ち、物性値の推算、および外部の計算エンジン(Gaussian、MOPAC、GAMESS、Q-Chem)とのインターフェースを備えたシステムで、2002年から無償のフリー版として公開されている。現在でも、月平均600−700本のダウンロードがあるという。
今後、有償化するに当たり、助成金プロジェクトへの応募を行い、GUIの全面改良やグリッド対応などの開発をさらに進める計画。それと合わせて、販売面を強化する目的でヒューリンクスと販売提携する方向で交渉に入った。有償版は2009年度から販売する予定だが、まずはフリー版向けの有償オプションを製品化し、来年からヒューリンクスを通して販売したいとしている。
将来的には、MolWorksを窓口にして、グリッドASPサービス経由でGaussianを利用するといった使い方が考えられるという。いまのことろ、有償版の価格は1本9万円、サイトライセンス150万円を予定しており、2010年度で6,000万円の売り上げを見込んでいる。