JSTが公的DB同士を相互参照する「化学物質リンクセンター」構想
4機関の参画を得てプロトタイプ版サービス開始、委員会組織も立ち上げへ
2007.08.10−科学技術振興機構(JST)は、国内の公的研究機関で構築された化学物質関連データベース(DB)を相互に接続する「化学物質リンクセンター」構想を発表、プロトタイプ版の一般公開を7月6日から開始した。現在、4機関/4DBが参画しており、JSTの化学物質辞書DBサービス「日化辞Web」からの片方向リンクが張られている。今後、さらに参加機関を募り、DB間のリンクを双方向に発展させるとともに、利用者の要望を吸い上げて機能強化を図っていく。
JSTの日化辞Webは、約248万件の化学物質の名称や構造式・分子式、CAS番号、法規制番号、用途情報などを収録したもの。今回の「化学物質リンクセンター」プロトタイプ版(http://chemlink.jp)では、日化辞Webに「リンク先機関名」のフィールドを追加し、そこから他機関のDBにジャンプできるようになっている。再度検索をすることなく、その物質に関する情報が異なるDBからも直接得られるため、調査の手間や時間を大幅に節約することが可能。
現時点でこの構想に参画している機関およびDBは、産業技術総合研究所の有機化合物スペクトルDB「SDBS」、物質・材料研究機構の高分子DB「PoLyInfo」、神奈川県環境科学センターの化学物質安全情報提供システム「Kis-net」、国立医薬品食品衛生研究所の既存化学物質毒性DB「JECDB」−の4つ。
各DBについて簡単に述べると、SDBSは電子衝撃法による質量スペクトル(EI-MS)、FT-IR法による赤外分光スペクトル、1H-NMRスペクトル、13C-NMRスペクトル、電子スピン(ESR)スペクトルの6種類のスペクトル情報を統合している。基本的に所内で測定されたデータであり、現在も定期的にデータの更新・追加が行われている。次に、PoLyInfoは、ポリマー物性や化学構造、測定サンプルの成形方法、測定条件、原料モノマー、重合方法などを相互に関連付けて収録したもの。物性項目としては、熱的物性、電気的物性、機械的物性など約100種類が対象になっている。データのソースは学術文献で、これも定期的に更新中。日化辞Webからはモノマー情報へリンクしている。
Kis-netは、神奈川県が作成したDBで、化学物質の管理を適切に行うために必要な物性や毒性などの基礎的な安全性情報を蓄積したもの。コンテンツとしては完成しており、現在はメンテナンスだけが行われている。JECDBは、厚生労働省が作成してきた化学物質毒性DB「GINC」を移管したもの。いまのところ、データを新たに追加する予定はないようだ。
今回のプロトタイプ版では、日化辞Web側からの片方向リンクになるため、実際に使用する際は日化辞Web(http://nikkajiweb.jst.go.jp)あるいは日化辞Webへのリンクを持つ科学技術文献サービス「JDreamII」(http://pr.jst.go.jp/jdream2/)を窓口にしてリンクセンターを利用するイメージになる。日化辞Webの収録物質数は248万件と、他機関のDBに比べて飛びぬけて多いが、実際に基本的な検索を行ってみると、リンクの張られたレコードが意外に多いという印象。日化辞Webの詳細表示画面だけでなく、検索結果の一覧表示画面にもリンクが出てくるため、すぐにリンク先を参照することが可能。他機関のDBもすべて無償で利用できる(PoLyInfoのみユーザー登録が必要)。
プロトタイプ版を一般公開して1ヵ月が経過したが、すでにいろいろな意見や要望が寄せられ始めているという。まずは、有識者・利用者・参画機関担当者らの意見交換を行う委員会組織を早急に立ち上げ、今後の発展に向けての論議を開始したい考え。双方向リンクは今年度中にも一部実現させる予定だが、相互リンク作業を効率的に行うため、各機関のDBの更新に合わせてリンクセンターのメタデータベースが自動更新されるような仕組みも盛り込んでいく。