米アスペンテック:ブレア・ウィーラー上級副社長インタビュー

統合スイート戦略さらに前進、新バージョンでユニークな機能続々

 2008.06.14−米アスペンテクノロジー(アスペンテック)は、石油・化学をはじめとするプロセス産業専門のIT(情報技術)ベンダーとして、市場でも特異なポジションを占めている。プラントの生産現場と経営をつないで、ビジネスの全体最適を達成させる統合ソリューション「aspenONE」を推進。今年の後半にはユニークな新機能を追加した最新バージョンがリリースされる。対日戦略も、ここ数年のコアであるエンジニアリング領域での高度利用の取り組みに加え、昨年夏の富士通との提携で急展開しはじめている。マーケティングと製品、パートナー戦略を統括するブレア・ウィーラー上級副社長に事業の現状と今後について聞いた。

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 − 「aspenONE」が2004年に発表されて以来、アスペンテックの戦略はどのように変わってきたのでしょうか。

 「エンジニアリングやシミュレーション、デシジョンメイキングなどのIT技術を用いて、プロセス製造業のための最適化を達成するという基本的なミッションがより鮮明になってきた。エネルギー、化学、エンジニアリングの3つをコア市場と位置づけており、そこでベストインクラスのベンダーになることを目指している」

◆aspenONEのライセンス好調◆

 − 最近の業績はいかがですか。

 「売り上げは、2005年が2億6,900万ドル、2006年が2億9,400万ドル、2007年は3億4,100万ドルと成長ペースを回復した。2006年からは営業利益も出ている。とくに、サービスの売り上げは1億4,000万ドルで横ばいだが、ライセンス収入が伸びている。なかでも、aspen0NEのライセンスは2005年の500万ドルから、2006年に4,100万ドル、2007年は7,700万ドルへと成長している」

 − aspenONEは現在、1,500社以上の導入実績があるということです。そうなると、aspenONE戦略はすでに成功したといえそうですね。

 「いやいや、まだ初期段階だと思っている。確かに顧客での成功事例は増えているが、まだまだこれからだ。当社は、10年以上にわたって20社以上のベンダーを買収・吸収してきた。その結果、多種大量の製品がばらばらに存在していたわけで、それらを1つのスイートにしたのがaspenONEだ。いまでも個別製品の顧客が大半であり、フルスイートのaspenONEが普及する余地は大きい」

 − さらなる浸透・普及のためには何がカギになりますか。

 「最近、われわれはトークンライセンスを推進しているが、これによりaspenONEに含まれるすべてのプログラムへのアクセス権を提供できる。つまり、ソフトはユーザーの手元にあるわけで、あとはいろいろなツールの存在をいかに知ってもらうか、それをどう使ってもらうかだ。その意味で、教育とトレーニングの充実に力を注いでいる。aspenONEは企業内、および取引先などとの組織の間の橋渡しをし、経営と製造現場を結びつけて業務全体の高度な最適化、迅速な戦略的意思決定を支援することが可能。このため、顧客との対話が何よりも重要だと認識している。トレーニングと教育を通して、aspenONEの“消費”がどんどん拡大していくと信じている」

◆最新バージョン7.0で新機能続々登場◆

 − 今年後半にリリース予定のバージョン7.0で“コンソール”と呼ばれる新機能が搭載されますね。いろいろなツールに自然に触れるうえで効果的だと思います。

 「これまでは、仕事に使うソフトをそれぞれに立ち上げておき、必要に応じて自分で切り替えたり組み合わせたりして操作するのが普通だった。ところが、プロセスエンジニアリングコンソールを利用すると、ユーザーがメニューの中からやりたい仕事を選ぶだけで、必要なソフトが自動的に働いてくれるようになる。シミュレーションや解析に対する高度なスキルをすべてのユーザーに要求しないので、裾野の広がりも期待できる」

 − 同じくバージョン7.0からの“Aspenライセンシングセンター”も興味深いですね。

 「このウェブツールによって、社内のトークンの使用状況を視覚的に管理できる。aspenONEに含まれるそれぞれのツールがどのように使われているかを定量的に把握することが可能。この情報は、顧客の承認を得て匿名で当社側でも集めさせてもらう。これによって、ベストプラクティスがわかるので、こういう場合にはこのツールが有効ですという具合に、顧客への提案に活用できると考えている。また、開発ロードマップにもフィードバックしたい」

 − たいへんユニークで効果的な取り組みだと思います。

 「当社の場合、製品群が多岐にわたっていること、業種を含めて顧客が幅広いこと、トークンライセンスモデルを採用していることなど、いくつかの条件が重なったので実現できた。ライセンシングセンターについては顧客の期待も大きいと感じている。評価バージョンでぜひ試してみてほしい」

◆国内のパートナー戦略が本格化◆

 − 次に、パートナー戦略について教えてください。

 「グローバルには3つのレベルで推進している。まず、チャネルパートナーは当社の製品・サービスを提供していただく代理店で、コア(エネルギー、化学、エンジ)以外の市場(消費財、紙パルプ、電力、製鉄など)を主に担当してもらっている。次にテクノロジーパートナーとしてマイクロソフトがある。aspenONEはドットネットを全面的に採用しており、仮想化やアプリケーション統合の基盤としても、マイクロソフトの技術をベースにしていく。最近はセールスやマーケティングでもグローバルな協力を得ている。最後がインテグレーションパートナーで、アクセンチュア、IBM、富士通がある。日本市場では、富士通に加えて、タイム・コマースがサプライチェーン分野で代理店を務めてくれている」

 「富士通とは昨年8月に提携したが、システムのインテグレーションやインプリメンテーションを行ううえで優れた組織力を持っており、われわれとしてもこの協業には大きな期待をかけている。双方とも、関係を強化していきたい意向であり、コアおよびノンコアの領域で国内におけるaspenONEの普及に向けてこれからも力を合わせたい」

 − テクノロジーとしては、完全にマイクロソフトに依存しているわけですが、顧客のなかからはLinuxでやりたいという声もあるのではないですか。

 「あまり考えたことがなかった。実際に、Linuxでというニーズはほとんどない。言われてみれば意外だが、少なくとも、私の耳にそうした声が入ってきたことはここ3年で一度もない」

◆原油高騰への処方箋◆

 − そうですか。わかりました。最後に、これは日本だけではないと思うのですが、長引く原油価格の高騰が化学産業に大きな影を落としています。そうしたなか、アスペンテックのソリューションはどのような局面で役立ちますか。

 「原料高騰に悩むいまの状況下で、少しでもコストを節約することに貢献することが可能だ。aspenONEは意思決定を最適化するソリューションであり、同じ量の原料でもたくさんの製品を取り出すとか、オフスペックの製品を減らす、製品をオーバースペックにしない、グレード切り替えのロスを減らす、あるいは原料選択の幅を広げたり、在庫や配送を含めたサプライチェーンの全体最適を図ったりするなどして、それを実現することができる。また、蒸気や熱、電気といったトータルエネルギーマネジメントによって、大きなコスト削減が可能。実際に、最近ではこのようなプロジェクトの依頼が増えており、当社としてもかなり忙しいのが現状だ」

 − なるほど、具体的な効果がありそうですね。長時間ありがとうございました。