マイクロソフトがWindowsHPCサーバー2008を正式提供開始
大規模PCクラスターをサポート、SOAベースでエクセル連携機能も強化
2008.10.03−マイクロソフトは2日、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)のために強化したサーバーOSの最新版「WindowsHPCサーバー2008」日本語版を提供開始したと発表した。多数のPCクラスターを束ねて科学技術計算などのシミュレーションを高速に実行させるためのシステムで、HPC利用の生産性を高めるとともに、既存のIT環境との統合などを通して運用管理を容易にし、HPC自体を一般市場へと普及させることを狙っている。このため、金融分野での採用も見込んでおり、とくに伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と特別に連携して市場開拓を目指すとしている。
マイクロソフトは、2005年冬の「スーパーコンピューティング2005」にてビル・ゲイツ会長がHPC参入を表明したことを受け、2006年8月に第1弾としてWindowsコンピュートクラスターサーバー2003(WindowsCCS)をリリースしていた。今回のWindowsHPCサーバーはそのバージョンアップ版に当たる。
実質的に、WindowsCCSはPCクラスターの入門システムで、4−8ノード程度の小規模構成での利用を想定していた。それに対し、今回のWindowsHPCサーバーは数百から数千ノードに対応できるように設計されている。これには、今春のスーパーコンピュータートップ500リストで第23位(NCSA設置の9,472コアシステム)にランクイン(ベータ版によって達成)するなど、HPC市場で確かな実績を築きつつある自信が背景にあるといえるだろう。
さて、WindowsHPCサーバー2008は、マイクロソフトの新しい高速RDMA(リモートダイレクトメモリーアクセス)技術である“NetworkDirect RDMA”、効率と拡張性に優れたクラスター管理ツール群、サービス指向アーキテクチャー(SOA)に基づくジョブスケジューラー、オープングリッドフォーラム(OGF)によって策定されたHPCBP(ハイパフォーマンスコンピューティングベーシックプロファイル)などの標準を採用。
システムの導入、管理と運用を簡略化するとともに、既存のITインフラとの相互運用性を向上させた。また、従来のリモートインストレーションサービス(RIS)に代わってWindows展開サービス(WDS)をサポートすることにより、パッチやドライバーなどを含めたノード展開イメージをテンプレート化し、1,000ノードを超える大規模環境でも迅速にセットアップできるようにした。
HPC向けアプリケーションの開発は、今後はマルチコア対応など並列処理を強く意識したプログラミングが要求される。WindowsHPCサーバーにおいては、ある意味で業界標準ともいえる統合開発環境であるビジュアルスタジオ2008が利用できるので、開発者のスキルという観点でもメリットが大きいという。
現在の対応表明パートナーとしては、対応サーバー製品がHPCシステムズ、クレイ・ジャパン、デル、日本IBM、日本コンピューティングシステム、NEC、日本ヒューレット・パッカード、ビジュアルテクノロジー、日立製作所、富士通の10社。構築サービスおよび関連ハードウエアパートナーが、アクセンチュア、伊藤忠テクノソリューションズ、インテル、HPCシステムズ、HPCソリューションズ、HPCテクノロジーズ、スケーラブルシステムズ、住商情報システム、デル、電通国際情報サービス、日本IBM、日本AMD、日本コンピューティングシステム、日本総研ソリューションズ、NEC、日本ヒューレット・パッカード、ビジュアルテクノロジー、日立製作所、富士通、ベストシステムズの20社。対応ソフトウエアパートナーは、アライドエンジニアリング、アルテアエンジニアリング、アンシス、インテル、ウルフラムリサーチアジアリミテッド、エスエムシーソフトウェア、ケイ・ジー・ティー、タワーズぺリン、サイバネットシステム、シーディー・アダプコ・ジャパン、ソフトウェアクレイドル、ミリマン・インクの12社となっている。
ライセンスは、ボリュームライセンス形態での提供のみとなり、価格は一般向けが9万1,400円、アカデミック向けは1万3,500円。保守契約付きのライセンスは一般向けで13万7,000円となる。
なお、マイクロソフトがHPCの新市場として金融に注目しているのは、欧米の大手金融機関が数千台から数万台のPCクラスターを導入しはじめているため。各金融機関が2−3ヵ月おきに数百台のペースで増設しているとの話もあり、ヒトゲノム解読でブームになった当時のバイオインフォマティクス市場に近い盛り上がりがあるようだ。リスクマネジメントからスタートしてさまざまな金融商品の分析などを行うが、驚くことにマイクロ秒単位で少しでも速く計算を終わらせたいというニーズがあるほどなのだという。
そうした金融計算にメインで使われるのが意外にもエクセルである。WindowsCCS時代も、エクセルの計算をPCクラスターで分散処理する仕組みが1つの売り物となっていた。これに対して、今回のWindowsHPCサーバーではSOAベースのエクセル連携機能を実現している。以前の仕組みがルーチン化されたバッチ型の連携を得意としていたのに対し、今回は動的かつ高速な連携を達成したことが特徴になる。