ケンブリッジソフトがラクオリア創薬にELNワークグループ版を導入

知財・データ信頼性が向上、紙と電子のハイブリッド運用

 2009.04.14−米ケンブリッジソフトは、中堅製薬業向けの電子実験ノートブック「E-Notebookワークグループ版」の国内第1号ユーザーとして、ラクオリア創薬(本社・愛知県知多郡)でシステムが本番稼働に入ったことを明らかにした。化学合成部門を中心に約30ユーザーの規模で導入したもの。ラクオリアは、新薬の導出を行うことがビジネスモデルであるため、システム化に当たっては知的財産やデータの信頼性が担保されることが最大の要件になった。さらに、研究員の情報共有を促進する戦略ツールとしての役割も重要視したという。これを機に、ケンブリッジソフトはビジネスパートナーの富士通と協力し、ワークグループ版の国内での普及をさらに加速させる。

 電子実験ノートブック(ELN)は、合成実験にともなって記載する紙の実験ノートを電子化したもので、実験計画の立案から実験結果の分析・考察まで、研究者が日常的に使用するシステム。研究の着想を得た時期を含めて、特許申請の重要な証拠資料ともなる。

 ラクオリア創薬は、2008年2月に設立し、7月から業務を開始したが、前身であるファイザーの中央研究所時代からELNシステム(ファイザー独自開発のグローバルシステム)を業務で使用してきた実績があるなど、もともと所内にITの専門部隊を抱えており、研究者のITリテラシーも高かった。そのため、正式設立前の2007年秋からシステム化のプロジェクトを開始。ケンブリッジソフト製ELNのエンタープライズ版を検討したが、コストの観点からこのときは断念したという。その後、デスクトップ版も評価したが、知的財産としての保存性に不安がある点や情報共有が難しいことが問題となり、これも見送った。

 ワークグループ版をあらためて検討したのは昨年7月からのこと。3ヵ月ほど実際に使用して評価したが、機能面で問題はなく、コスト的にも許容範囲だったため採用を決めた。試用期間中の研究員の声としても、ファイザー時代のELNシステムと比べてレスポンスが悪いという意見はかなり少なかったことに加え、紙と電子の比較では仕込み量の計算や分子量計算、構造式の記述、実験手順の記載など、運用面で圧倒的に電子化を支持する意見が大勢を占めたという。

 ケンブリッジソフトのELNのエンタープライズ版とワークグループ版の違いは、システムが前者は3層アーキテクチャーで、後者は古典的なクライアント/サーバーモデルで開発されていること。使用するデータベースソフトも、前者はオラクル、後者はマイクロソフトのSQLサーバーを用いている。

 ラクオリア創薬が今回導入したシステムでは、ハードウエアとしてXeon(クアッドコア、2.66GHz)、メモリー2GBのPCサーバー、OSにはWindowsサーバー2003を採用した。知財としてのデータを保管するバックアップシステムも完備。

 アプリケーションは、E-Notebookバージョン11.0ワークグループ版で、コンフィグレーション機能を利用し、化合物番号やプロジェクトコードなどのデータフィールドの追加、目次の変更、よく使う試薬データの追加・編集、オートテキストの編集−といったカスタマイズを施した。これらの作業を含めたシステムの構築・導入は富士通が担当した。

 運用形態は、紙のノートと併用するハイブリッド型で、紙と電子で同一のノート番号を付与しておき、電子版で実験計画を立て、実験した結果を印刷して紙のノートに貼り付けて署名したのち、最終的に紙を原本とするスタイル。他人のノートは閲覧だけに限るほか、いったん作成したノートを勝手に削除できないようにするなどのアクセス権設定も行っている。また、ネットワーク障害時には、ELN自体はスタンドアロンで動作するため、そのまま業務を行い、ネットワーク復旧後に同期を取るという運用ルールを定めている。

 現在のバージョンはWindowsのアクティブディレクトリーに対応していないため、利用時にIDとパスワードを入れ直す手間があるが、次のバージョンアップでシングルサインオンに対応させる予定。さらに、自宅で実験計画を考えたいという研究者も多いため、モバイル環境のサポートも検討する。一方、生物系の研究者については、電子ノートに求める要件や使い方が化学系とは異なっており、電子化は今後の課題になるということだ。