アドバンスソフトが材料設計支援システムの製品化に着手
計算エンジン組み込みのプラットホーム型、国産ソフト統合で強み
2009.08.19−アドバンスソフトは、新しい国産の材料設計支援システムの製品化に向け、このほど開発をスタートさせた。国内の大学や研究機関で開発された計算エンジンを相互に連携させ、材料設計に役立つ解析機能を組み込んだ統合プラットホームの確立を目指す。この分野のシステムは海外製品が優位にあるが、同社は国産ならではの充実したサポートサービス、普及価格での提供を武器に市場を広げたい考え。製品化の時期はいまのところ未定だが、来年以降になるとみられる。
今回開発するシステムは、各種の計算エンジンとの入出力インターフェースを備えた統合プラットホーム型のシステムという意味で、米アクセルリスの「Materials Studio」、仏サイエノミクスの「SciMAPS」、富士通の「SCIGRESS」−といった先行製品群と同じ開発思想を採用している。ただ、現時点では、純粋に国産ソフトだけで製品を構成しようとしている点にこだわりが見受けられる。
同社は、文部科学省ITプログラムとして2002年度からスタートした「戦略的基盤ソフトウェアの開発」を皮切りに、その後継である「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」をはじめ、各種のプロジェクトに参画し、国産ソフトの研究開発と製品化に貢献してきた。
今回の材料設計支援システムでは幅広い計算手法をカバーした計算エンジン群を揃えていくが、量子化学計算では「ABINIT-MP」、第一原理計算では「PHASE」、メソスケールシミュレーションで「OCTA」など、すでに自社で製品化しているプログラム群を活用。分子動力学計算や大規模密度汎関数法計算ではフリー版のソフトの中から候補を検討中だという。(下表参照)
OCTAとPHASEはもともと材料系を対象にした計算エンジンであるため、現在製品版として提供されているソフトと大きくは変わらないが、ABINIT-MPについてはたん白質と薬物分子との間の相互作用解析が主な用途であるため、一点計算が中心になっているという制約がある。そこで、材料設計に利用することを念頭に、ABINIT-MPに密度汎関数法(DFT)やMP2法による構造最適化機能を追加する計画。さらに、励起状態の計算機能を組み込むほか、量子力学と古典力学のハイブリッドであるQM/MM計算でも構造最適化ができるようにしていく。その意味で、ABINIT-MPは現在のプログラムから大きく拡張されることになる。
一方、製品化に向けたロードマップだが、まず分子構造・結晶構造・高分子構造・液体構造などのビルダー開発に着手するとともに、各エンジンとの入出力インターフェースを整備。その後、次のフェーズで計算結果を解析するためのグラフィック表示機能(グラフ、チャート、分子軌道図、アニメーションなど)の開発、さらにジョブの実行管理・実行状況表示などの機能を組み込み、ベータ版あるいは製品候補版の位置づけで限定的に販売を開始。そのフィードバックを得て、各種機能の改善・改良、計算エンジンの拡充などを行って本格的な製品版に仕上げていく。
新システムは、統合プラットホームが異なる計算エンジンを仲介することにより、エンジン間でのデータやモデルの連携が容易になり、幅広い計算スケールにおよぶ材料特性の解析がやりやすくなる。エンジンも含めて開発が国内で行われているため、サポートサービスの面でも有利。わが国の先端材料開発の国際競争力向上の観点からも、こうしたシステムの実用化の進展が期待されるところだ。
なお今回のシステムでは、計算対象として、エンジニアリングポリマー、燃料電池、リチウムイオン電池、太陽電池、ナノ複合材料、界面活性剤、ドラッグデリバリーシステム、透過膜、鉱物、酸化物、金属、合金、触媒、溶剤、セラミックス、半導体、医農薬、化学反応、吸着、分離、拡散−などの幅広い材料や現象を扱えるようにしていくという。