富士通が協和発酵キリンに電子実験ノートシステムを導入

法規制化合物チェックと連動、ナレッジ共有促進へ

 2010.08.10−富士通は、協和発酵キリンから電子実験ノート(ELN)システムを受注し、医薬候補化合物の合成実験を対象業務として、4月からシステムの本運用を開始していることを明らかにした。すべての実験情報を記録・共有することで、研究の効率化とスピードアップを達成することが狙い。とくに今回のシステムでは、実験で扱う化合物が麻薬や覚せい剤などの法規制化合物に該当するかどうかをチェックする機能をELNに統合したことが特徴であり、コンプライアンスの観点からも注目されている。

 ELNは、実験の手順や結果、化合物の構造式などの情報を記載した“実験ノート”を電子化したシステム。紙のノートは日付を明記し、署名・承認が付されて保管されるもので、重要な発明や発見が得られた場合に、それがいつ誰によって完成されたかの証拠になるため、とりわけ製薬企業において重要視されている。

 紙が電子化されることにより、仕込み量や収率などの計算が自動化されたり、過去の実験をテンプレートにしてノート作成を効率化したりするなどのメリットがあるほか、蓄積された情報の検索・再利用が容易になるため、重複実験が排除できるといった時間・コスト的な利点、さらにはナレッジの共有と活用によって研究の高度化を達成するといった効果がある。

 富士通は、ELN市場で米ケンブリッジソフトが開発したパッケージソフト「E-Notebookエンタープライズ」の代理店を務めており、その構築実績は国内トップ。今回の協和発酵キリンとのプロジェクトでは、約1年間にわたるパイロットを踏まえ、運用ルールを含めた要件定義がしっかりと行えたこともあって、わずか4ヵ月という構築期間でシステムを完成させた。協和発酵キリンは、抗体技術を核とする最先端のバイオテクノロジーを駆使した新薬開発を推進しており、実験ノートの電子化を通じたナレッジ活用・開発速度向上がまさに急務となっていたという。

 とくに、今回のシステムでは、ELNと法規制化合物チェック支援システムとの連携がポイントになっている。実験する反応式をノートに記述し、画面に組み込まれたチェックボタンを押すと、外部のチェックシステムが動作し、ELNの画面内にチェック結果が表示されるという仕組み。反応物あるいは生成物が麻薬や覚せい剤などに該当する場合、どの法令に関係したかも確認することができ、化合物の適正管理に役立つ。チェック漏れを防ぐため、チェックボタンを押さずにページを切り替えようとすると、自動的にチェックシステムが走るような仕掛けも組み込まれているという。

 実際に実験をする前にELN上ですぐにチェックができるため、知らないで合成してしまうといったミスを未然に防ぐことができる。

 今回のELNは、協和発酵キリンの合成研究部門に全面導入されたものだが、現状では紙と電子を併用するハイブリッド式の運用となっている。ただ、将来的には完全電子化も視野に入れているという。また、ELNが研究業務の基盤となるため、データのセキュリティやサーバーなどの可用性には十分な配慮がなされているということだ。


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