富士通がポスト「京」の開発状況を公表

OSSベースでエコシステム、ハードからソフトまでマルチベンダー志向

 2017.09.06−富士通は、文部科学省の「フラッグシップ2020プロジェクト」で開発中の次期スーパーコンピューター「ポスト『京』」の開発状況の一端を公表した。同社が事務局を務める「サイエンティフィック・システム研究会」(SS研)の公開フォーラム(8月30日開催)で講演したもの。プロセッサーにSPARCを採用した「京」に対し、ポスト「京」ではARMを採用することがすでに伝えられているが、今回は主にソフトウエア面での開発の進捗状況が示された。オープンソース中心のエコシステムの構築を狙っており、最終的にはハード、OS、ミドルウエア、コンパイラー/ツール、アプリケーションのあらゆる階層がマルチベンダー化されるという。

 ポスト「京」では、ハードウエアのアーキテクチャーが変更され、ARMv8-Aアーキテクチャーをベースに、富士通独自のHPC拡張命令(SVE)をサポートすることが決まっている。ただ、ARM社はアーキテクチャーの設計だけで製造はしないため、実際のプロセッサーは富士通が開発・製造することになる。基本的に、「京」のアプリケーション資産を継承できる(プロセッサーが異なるのでリコンパイルは必要)こと、電力当たりの処理性能を「京」よりも向上させること、ARMによるHPCを普及させるためにオープンコミュニティと連携すること−が基本方針だという。

 とくに、オープンコミュニティとの連携に基づくエコシステムをつくり上げるため、ARMベースのソフトウエア標準化団体である「Linaro」、およびPCクラスターソフトの標準化を行っている「OpenHPC」と協調して作業することにしている。ARMはもともと組み込み用途が多いため、Linaroも組み込みソフトの標準化がメインだったが、最近になってHPC向けのスペシャルインタレストグループ(SIG)が組織されており、サーバー用途に適したSBSA(サーバーベースシステムアーキテクチャー)が策定された。ポスト「京」もSBSAに基づいて開発することになる。この標準に準拠することで、ARMベースのHPCシステム間でソフトウエアのバイナリー互換性が達成可能。LinuxなどのOSがバイナリー互換となり、Linuxディストリビューションがそのまま動作するほか、SIMD幅が異なるシステムでもバイナリー互換性を持たせるようにできるという。富士通はSIMDの512ビット幅でチップ開発する意向だが、別の企業が256ビット幅のチップを製造しても互換性が保たれる。

 また、ARM HPCエコシステムの環境整備として、富士通はコンパイラー開発でLinaroに貢献することにしており、SVE対応のアーキシミュレーターQEMUの技術を提供する。さらに、IAサーバーとARM HPCシステム間でのソフトウエア移植性を確保するため、OpenHPCと協力し、PCクラスター向けのソフトがリコンパイルだけでポスト「京」で動作するようにしたいとしている。ソフトの動作検証や移植推進については、ARM HPCユーザーグループやLinaroデベロッパークラウドなどの枠組みを利用する計画だ。

 基本的に、このようなオープンソース標準との親和性を重視することで、ハードウエアはもちろん、OSやミドルウエア、コンパイラーや各種ツール、アプリケーションまで、すべてマルチベンダーでのシステム化が実現されることを最終目標に据えている。利用者にとっても、ソフトの開発や移植が格段に便利になり、同系統のシステム間でソフトを共用できるため、ポスト「京」をベースにした科学研究が一段と加速すると期待される。

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 なお、ポスト「京」向けのアプリケーションとしては、9つの重点課題と4つの萌芽的課題が設定されている。重点課題は、(1)生命分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築、(2)個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学、(3)地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築、(4)観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化、(5)エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤の開発、(6)革新的クリーンエネルギーシステムの実用化、(7)次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成、(8)近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発、(9)宇宙の基本法則と進化の解明。また、萌芽的課題は、(1)基礎科学のフロンティア−極限への挑戦、(2)複数の社会経済現象の相互作用のモデル構築とその応用研究、(3)太陽系外惑星(第二の地球)の誕生と太陽系内惑星環境変動の解明、(4)思考を実現する神経回路機構の解明と人工知能への応用−が設定されている。

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<関連リンク>:

理化学研究所(フラッグシップ2020プロジェクト 特設サイト)
http://www.aics.riken.jp/fs2020p/

理化学研究所 計算科学研究機構(フラッグシップ2020プロジェクトの紹介ページ)
http://www.aics.riken.jp/jp/overview/post-kcomputer/

富士通(HPCプラットホームの紹介ページ)
http://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/tc/products/


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