スパコン「京」が2019年夏に停止・運用終了へ

端境期をHPCI第2階層システム群でカバー、議論が佳境に

 2018.11.09−スーパーコンピューター「京」の運用が停止され、ポスト「京」が稼働するまでの約1年半とみられる空白期間(端境期)をいかに乗り切るかの議論が進んでいることがわかった。2日に東京・品川で開催された『「京」を中核とするHPCIシステム利用研究課題成果報告会』で取り上げられたもの。全国の大学などに設置されたスパコンが「京」の穴を埋めるが、利用可能なアプリケーションの面で完全な置き換えが難しいなどの課題が指摘されたほか、「単一のフラッグシップマシンに依存する体制である限り、更新時に端境期が生じることは最初から想定しておくべきだった。次のポスト「京」ではこのような議論を繰り返さないですむようにすべき」といった意見も出された。

 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)は、理化学研究所のスーパーコンピューター「京」を中核とし、国内の大学や研究機関の情報基盤センターなどを高速ネットワークで結ぶことにより、全国の幅広いHPCユーザー層が効率良く利用できる科学技術計算環境を実現するもの。「京」は、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用法)に基づいて、国の特定先端大型研究施設に指定されており、高度情報科学技術研究機構(RIST)が利用促進業務を担当している。「京」以外のHPCI構成システムは、文部科学省委託事業「HPCIの運営」の一環として共用されているが、「京」は全資源量の85%をHPCIの利用課題に提供しており、全体として「京」への依存度が高い。

 「京」以外のHPCI資源は「第2階層システム」と呼ばれており、北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、海洋研究開発機構、統計数理研究所の各スパコンから自発的に提供された資源で構成される。HPCI全体の計算資源量の約4割を占め、公募で採択された約70の研究課題に利用されている。このうち、東大と筑波大が共同で運用している「Oakforest-PACS」は単独で「京」を上回る性能に達している。

 「京」も稼働から6年が経過して更新時期が近づき、すでにポスト「京」の開発が進行中。ポスト「京」は2021年から2022年に共用開始となる予定だが、現在の「京」の稼働が2019年夏に停止する。このため、ポスト「京」までの端境期をHPCIとしてどう埋め合わせるかが問題となっている。

 第2階層システムには、すでに「京」を上回るマシンもあり、能力的には穴埋めは十分に可能。ただし、「京」の計算ノード数は8万以上で、他のスパコンの10倍以上であり、メモリーやネットワークの帯域幅を含めて、超大規模計算が可能な唯一の計算機として、質的に代替できるスパコンは他にはない。また、「京」は国プロ開発などのアプリケーションやオープンソースソフト、市販アプリケーションなど幅広い稼働実績があるが、第2階層システムにおけるこれらのアプリケーションの対応に不安が残るという。さらに、「京」で行われていた有償の産業利用枠が、第2階層システムには設けられていないという問題もある。

 第2階層システムの各スパコンは、「京」とアーキテクチャーの異なる機種が多く、「京」で利用していたアプリケーションの移植やチューニングは大きな課題になりそう。端境期の間も、HPCIの利用課題の受け付けは継続される。名大のスパコンなど「京」と互換性のあるマシンもあるが、一部に要望が集中しても対応できないと考えられるため、窓口となるRIST側での調整も重要になりそうだ。当面、RISTでは、OpenFORM、GROMACS、QuantumESPRESSO、LAMMPSといった利用頻度の高いオープンソースソフトをピックアップし、第2階層システム上での利用環境整備(最新バージョンのインストール、必要なライブラリーや実行シェル等の用意、チュートリアル・ドキュメントの整備、セミナー・ワークショップの開催など)を優先的に進める計画。利用相談にも親切に応じたいとしている。

 「京」の運用をできるだけ延長し、端境期を圧縮することが理想だが、運用期間は最大限で2019年夏までになるという。今後の議論が注目される。

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<関連リンク>:

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http://www.hpci-office.jp/

HPCIコンソーシアム(トップページ)
https://www.hpci-c.jp/

高度情報科学技術研究機構(トップページ)
http://www.rist.or.jp/


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