ダッソー・システムズが材料設計「Materials Studio」の最新版
合金や電池材料など設計対象を明確化、日本の要望取り入れ新機能
2020.04.04−ダッソー・システムズ(3DS)は、材料設計支援システムの最新版「Materials Studio 2020」(MS2020)をリリースした。電池材料や合金開発をサポートするワークフローや、第一原理計算のための新しい交換相関汎関数の追加、古典力場計算用のイオン液体向け新パラメーターの追加、機能強化した高精度力場COMPASS IIIの搭載などの新しい機能が盛り込まれている。また、国内ユーザーの要望に基づき、日本法人で開発した機能が組み込まれたことも大きな特徴となる。今後も日本のユーザーの声を製品に反映させたいとしている。
Materials Studio は、Windows版が1999年にリリースされた製品で、20年の節目を超えた歴史あるアプリケーションといえる。今回のMS2020は、基本となる計算エンジンの機能が強化されていることはもちろん、実際の研究テーマにおける利用方法をワークフローのかたちで組み込み、メタルアロイの設計や電池材料の設計などに具体的に対応できるようにしたことが特徴。3DSの他のブランドのシステム群と連携することで、川上から川下までの統合的なモデリング&シミュレーションを実現することを狙いとしている。分子レベルでも計算する系が大きくなっているため、クラウドを利用したハイパフォーマンス計算やGPUサポートも進めており、Pipeline Pilotによる自動化を通し、ユーザー自身はあまり意識せずに高度な環境を利用できるようになってきている。
また、BIOVIA製品を連携させることにより人工知能(AI)/機械学習への対応にも力を入れており、オープンソースの各種AI/MMツールをPipeline Pilotで活用できるようにしてきている。
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計算化学面での具体的な機能強化をみていくと、まず古典力学系の計算エンジンは、分子動力学法の「Forcite」について、自己拡散係数の自動計算、クーロン相互作用計算の効率化、密度プロファイルの計算(水と油の混合溶液など)、正弦振動する電場の印加、また無機・格子シミュレーションの「GULP」では、加熱・冷却など温度を変化させるスクリプト計算機能が搭載された。
古典系の計算では力場が重要になるが、2015年にリリースされたCOMPAS II(ツー)がグレードアップし、COMPASS III(スリー)としてMS2020に組み込まれた。以前のものはGaussianを使った計算をもとにパラメーターを決定していたが、今回は自社エンジンのDMol3を採用している。新たに利用したデータセットとして、ドラッグライクな化合物データベースのMaybridgeから6万件、日本のポリマーデータベースであるPoLyInfoから1万8,000件、イオン液体データベースのIL Thermoから1,200件のデータをパラメーターづくりに用いた。今回使用したパラメーターフィッティングツールはPipeline Pilotの機能を利用したもので、ユーザーが自分で活用することも可能となっている。自社のデータセットを用いて力場を調整することができる。
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一方、量子力学系の計算エンジンは、密度汎関数法(DFT)エンジンの「DMol3」、DFTに基づく平面波基底・擬ポテンシャルを使用した第一原理計算プログラム「CASTEP」、数千原子規模のオーダーN法DFT計算を並列実行する「ONETEP」などで構成される。
MS2020において、CASTEPは結晶構造の最適化などに有効なMeta-GGA機能の強化が行われており、GUIによって計算が簡単に実行できるようになった。また、ハイブリッド関数がサポートされ、バンドギャップの計算精度が向上したという。GPU対応のテストも進行中で、年内にリリースできる可能性があるようだが、少なくとも4−5倍の高速化が期待できるとしている。
ONETEPでは、金属の大規模な系に対する計算機能を拡充してきており、金属向けのAQUA-FOE法を新たに追加。金属ナノ粒子の解析にも対応でき、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)領域で実験と計算との整合性を検証するような用途にも利用できるという。また、溶媒効果を考慮した計算も機能強化されている。
日本のユーザーからの要望で日本法人が開発・実装した機能は、DMol3関係のもので、汎関数の拡張、COOP(Crystal orbital overlap population)/COHP(Crystal orbital Hamiltonian population)の計算がある。第一原理計算では、材料物性を精度良く求めるために交換相関汎関数の選択が重要になる場合があるが、DMol3は利用できる汎関数に限りがあり、とくにMeta-GGAのハイブリッド計算には対応していなかった。今回のMS2020で、PBE0、M06、M06-2X、TPSSh、SCAN0が追加されており、GUIでハイブリッド計算を選択することで、これらを使用することができる。
COOP/COHP計算は、分子軌道の重なりによって生じる結合性/反結合性軌道を解析することにより軌道同士の相互作用を定量的に評価する方法で、今回は結晶に対応できるようになったことが注目される。分子表面への吸着や、分子のスピン状態の詳細な解析にも有効に利用できるという。
MS製品に日本で開発された機能が実装されたのはこれが初めてだが、今後もユーザーニーズを反映するように努力したいとしている。
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<関連リンク>:
ダッソー・システムズ(BIOVIA 日本語トップページ)
https://www.3dsbiovia.jp/
ダッソー・システムズ(BIOVIA Materials Studio 日本語製品情報ページ)
https://www.3dsbiovia.jp/products/collaborative-science/biovia-materials-studio/