米国ベンダーが新型コロナウイルス研究を支援する取り組み
関連情報・ソフトライセンスなど無償提供、HPC/AI活用も焦点に
2020.04.15−新型コロナウイルス感染症の拡大が世界で最も進んでしまっている米国で、主要CCSベンダー各社が、研究グループを支援するなどの取り組みを打ち出している。内容はさまざまだが、現時点の状況をまとめてみた。学術データベースサービスを中心とするケミカルアブストラクツサービス(CAS)、クラリベイト・アナリティクス、エルゼビア、モデリング&シミュレーションを主体とするダッソー・システムズ、シミュレーションズプラス、さらにNVIDIA、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンウェブサービス(AWS)の取り組みを紹介する。
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2020.04.02付−米国化学会(ACS)の科学情報ソリューション部門であるケミカルアブストラクツサービス(CAS)は、既知または潜在的な抗ウイルス活性のある化合物のオープンアクセスデータセットを作成し公開した。これは、「CAS REGISTRY」に登録されている物質の中から、文献で抗ウイルス活性が報告されているもの、あるいは既知の抗ウイルス剤と構造的に類似する化合物を約5万件抽出したもの。各物質のCAS Registry Numberに加え、構造データおよび各種物性(分子量、融点、沸点、密度、pKa)データも無償で提供される。
これは、アレン人工知能研究所のCOVID-19 Open Research Dataset(CORD-19)に寄贈される初の化学物質コレクションになるという。CASでは、「COVID-19の認可ワクチンが日常的に利用できるようになるまで1年以上かかりそうだが、短期の治療研究の多くは、症状を緩和し回復を早めることができる抗ウイルス療法に集中している。今回のコレクションを利用してCOVID-19への活性を検証することにより、短期的な治療に転用されうる候補分子のプールが得られる」としている。
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2020.02.12付−クラリベイト・アナリティクスは、医療研究者・政策立案者・ジャーナリスト・医療専門家が、世界中で進められている研究と最新ニュースに迅速かつ簡単にアクセスできるようなツールとリソースのコレクションを提供している。「Cortellis」「Web of Science」「BioWorld」などの同社のデータおよびインサイトツールから選んだ最新の新型コロナ関連ニュースを提供。数十年にさかのぼるすべてのコロナウイルス株に関する文献から、創薬および臨床開発、規制当局への申請、商業化、特許までを網羅している。
また、「Disease Insights: Coronaviruses」として、原因や症状から、罹患率、死亡率や伝染などの疫学情報、さらに治療、予防などコロナウイルスのさらなる研究と分析を進めるための基盤となる包括的なレポートを無償でダウンロードすることができる。さらに、「Cortellis Drug Discovery Intelligence」への90日間無料アクセスを提供しており、コロナウイルス研究に役立つ薬物パイプライン、疾患の概要、薬理学データ、薬物動態データ、動物モデル、治療ターゲットなどのデータにアクセスすることができる。
そのほか、武漢大学ファイティングCOVID-19基金への寄付という形での支援を行っている。
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2020.03.13付−科学・医療分野における情報分析専門ベンダーであるエルゼビアは、収集した新型コロナウイルス関連の研究成果・データを、米国立衛生研究所のPubMedや世界保健機関(WHO)のCOVIDデータベースを含む世界中の公的なレポジトリーに対して提供を開始した。この取り組みは、今回の公衆衛生上の緊急事態が収束するまで継続する。
同社は、今年1月に英語および中国語で新型コロナウイルスに関する情報を無料で公開する「COVID-19 Information Center」を開設。ウイルスおよび疾病に関する最新の研究情報を毎日更新し、査読済み論文を掲載するエルゼビアのオンラインプラットフォーム「Science Direct」からの1万9,500を超える論文のリンクを無償で提供している。
今回、公的レポジトリーに公開するデータは、機械可読なフォーマットとなっており、全文アクセス、データマイニング、再利用、分析の権利も合わせて利用可能。このため、各国の研究者は急速に増加する文献を人工知能(AI)を活用してフォローし、傾向をつかむことが容易になるという。
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2020.04.13付−ダッソー・システムズは、生命科学研究向けモデリング&シミュレーションシステム「BIOVIA Discovery Studio」の6ヵ月間無償アカデミックライセンスを提供開始した。生物学的製剤の設計と分析、力場シミュレーション、構造およびフラグメントベースの薬物設計、仮想リガンドのスクリーニング、およびADMEと毒性の予測ツールなどを含むインシリコ創薬のための統合システムで、ターゲットの特定から最適化までの完全なツールセットとして利用できる。新型コロナウイルスに対する迅速で安全かつ効果的な治療薬候補の探索を支援するために提供するもの。ウェブサイトから申し込むことができる。
また、その他の取り組みとしては、湖北省・武漢市の仮設病棟建設時の空調シミュレーションに流体解析ソフト「SIMULIA XFlow」が使われたほか、オープンイノベーションラボである3DEXPERIENCE Labを通じて、酸素吸入器や人工呼吸器の設計や3Dプリンティングによる部品の生産を加速させる医療機器関連スタートアップの支援を行っている。
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2020.03.26付−モデリング&シミュレーションベンダーのシミュレーションズプラスは、新型コロナウイルスの研究機関に対するコンサルティング支援を迅速に行うアクションプログラム「StrategiesPlus」を開始した。安全で効果的な治療法の開発に貢献する専門知識を提供するもので、同社のソフトウエアやサービスをこのテーマに適用するための具体的な方法をサポートする。
具体的には、(1)薬物の体内動態をシミュレーションする「GastroPlus」によってさまざまな投与方法(吸入、経口、各種非経口経路)を評価し、肺への暴露を目標に投与方法を最適化、(2)承認済みのGastroPlusモデリング&シミュレーションデータを適用したドラッグリポジショニング戦略の支援、(3)DILIsymの定量的システム毒性学(QST)/薬理学(QSP)モデルを利用し、薬剤候補物質の潜在的な肝毒性リスク、肺や心臓への損傷に関連する病態生理学上の有効性を予測、(4)コグニジェンが開発した最先端のウイルスダイナミクスモデルの実装を含む臨床的および戦略的意志決定、承認申請のためのモデリング&シミュレーションのサポート、(5)規制に対応するための包括的な臨床薬理学コンサルティング−などを行う。
また、同社では、既存ユーザーがテレワーク環境で研究することに対応し、ソフトウエア使用場所に関する距離制限(登録場所から半径50キロメートル以内)を暫定的に解除している。
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2020.03.23付−NVIDIAは、ゲノムデータ解析ソフトウエア「Parabricks」の90日間無償ライセンスを、世界中の新型コロナウイルス研究者に提供開始した。同社のGPUを活用することで、ゲノム配列データの解析を50倍以上の速さに加速できる。新型コロナウイルスと、これに感染した患者のゲノムの両方の配列を解析することで、疾病の広がりや感染しやすい人などを把握できるようになるという。
同社は、昨年12月に、ミシガン州アナーバーに拠点を置くゲノミクス用GPUソフトウエア開発元であるParabricksチームを、NVIDIAのヘルスケア担当チームに統合した。ゲノムデータの爆発的増加が、将来のGPUアプリケーションとして重要になると判断したため。ParabricksをNVIDIA GPU上で動かすことにより、1台のサーバーでヒトゲノム全体から変異を検出するのにかかる時間が、数日から1時間未満に短縮される。ゲノム解読のコストも半減するという。
さらに、GPUで高速化するツールのリポジトリーがGitHubで利用できるほか、MedakaやRacon、Raven、Reticulatus、Unicyclerといったアプリケーションも、すでにNVIDIA GPUアクセラレーションに対応している。
2020.04.06付−米国の政府、産業、および学界のリーダーたちが結集して新型コロナウイルス研究を加速する「COVID-19 ハイパフォーマンスコンピューティングコンソーシアム」に、NVIDIAの特別チームが参加している。このプロジェクトでは、全体で400ペタFLOPS以上の処理能力を持つ30機のスーパーコンピューターが利用されており、それらの多くにも同社のGPUが採用されている。
コンソーシアムにおけるNVIDIAチームの貢献は、(1)人工知能(AI)に関する専門知識を提供し、より多くのデータをより速く収集・処理できるようにサポート、(2)分子動力学、医用画像処理、ゲノミクス、ならびに計算流体力学とビジュアライゼーションに関する専門知識により科学的な前進に貢献、(3)スーパーコンピューターのスループットを最適化するためのノウハウ提供−など。AIおよびライフサイエンス関連のGPU対応ソフトウエアパッケージも提供しているという。
なお、COVID-19 HPCコンソーシアムには、産業界からは同社のほか、IBM、アマゾンウェブサービス、AMD、BP、グーグル・クラウド、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、マイクロソフトも参加している。
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2020.04.10付−グーグルとアップルは、政府と保健機関による新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ活動を支援するため、ユーザーのプライバシーとセキュリティを重視したBluetoothテクノロジー利用を可能にする共同の取り組みを開始している。
感染拡大を抑える上で、感染者との濃厚接触の検出・追跡が有効であり、強力なプライバシー保護を維持しながら、同意を得て利用者から情報を集める仕組みを実現することが狙い。両社は、AndroidおよびiOS端末間で相互運用を実現するAPI(アプリケーションプログラミングインターフェイス)を5月にリリースする。公式アプリとしてユーザーがダウンロードできるようになる。
これに加え、より広範なBluetoothベースの濃厚接触の可能性を検出するプラットフォームの構築を目指していく。これは、APIよりも堅牢なソリューションで、より多くのユーザーが参加できるようになるだけでなく、アプリや政府の保健当局といったより広範なエコシステムとの協働が可能になるという。プライバシー、透明性、同意が重要であり、今後各方面と協力しながら、数カ月をかけて開発を進めるとしている。
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2020.04.09付−マイクロソフトは、世界中の人々や地域社会の健康を向上させる取り組みとして、今年1月23日に「AI for Health」を立ち上げた。5年間にわたり約4,000万ドルを投入する取り組みで、人工知能(AI)によって研究者や研究組織を支援することが目的となっている。総額で1億6,500万ドル規模となる「Microsoft AI for Good」の5番目のプログラムに当たる。今回、新型コロナウイルス研究の最前線にいる人々の支援に焦点を当て、「AI for Health」の一環として新たな取り組みを開始するもので、これに約2,000万ドルを費やす計画である。
とくに、AIを利用して膨大なデータセットを高速処理することや、病原体の媒介者を分析して治療の影響を特定することに力を入れる。具体的には、(1)安全と経済的影響に関するデータと知見の提供、(2)ワクチン、診断法、治療薬の開発をより進める研究の支援、(3)病院のスペースや医療機器など、限られたリソースの分配に関する提案、(4)誤った情報の拡散を抑え、正確な情報を発信、(5)新型コロナウイルスへの理解を深める科学的研究−に重点を置く。このような研究に取り組む研究者および研究機関に対する助成金の提供も行うことにしている。
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2020.04.15付−アマゾンウェブサービス(AWS)は、新型コロナウイルスとその感染症の拡大に関するキュレーション済みの最新データセットを一元化したリポジトリ「AWS COVID-19 データレイク」を医療従事者、医学研究者、科学者、公衆衛生担当者向けに公開した。API(アプリケーションプログラミングインターフェース)を介してデータを利用することも可能で、大量の最新データを自由に解析できる。
このデータレイクは、AWSのクラウドでホストされており、ジョンズ・ホプキンズ大学とニューヨークタイムズからのケーストラッキングデータ、Definitive Healthcare からの病院の病床の利用可能性、およびアレン人工知能研究所からの4万5,000以上の関連文献を集約している。情報源はさらに広げる予定。
AWSまたはサードパーティーのツールを使用して、傾向分析の実行、キーワード検索の実行、質問/回答分析の実行、機械学習モデルの構築と実行、またはカスタム分析の実行により、特定のニーズを満たすことができる。データレイク内のデータと独自に用意したデータとを組み合わせて利用することも可能。
2020.04.16付−アマゾンウェブサービス(AWS)は、医療現場での診断法の迅速な市場投入に取り組む顧客と、組織間の連携を促進するためのグローバルプログラムとして、「AWS Diagnostic Development Initiative」(AWS診断開発イニシアティブ)を立ち上げた。35の国際的な研究機関、スタートアップ、企業の参加を得てスタートしており、初期投資として2,000万ドルを投じ、新型コロナウイルス感染の検出と診断方法に関する研究、イノベーション、開発を加速させる。
今回のイニシアティブは、AWSのリソースを使用するためのクレジットと技術支援を組み合わせて提供し、顧客の研究チームがクラウド環境を最大限に活用できるようにすることが狙い。自宅や診療所で即日結果が得られるポイントオブケア診断の開発を目指す認定研究機関や民間事業者も対象にしている。
同イニシアティブの活動の優位な点として、(1)疾患の正確な検出は効果的なパンデミック対応戦略に不可欠なこと、(2)ワクチンに焦点を当てた研究が優先され、診断に関する研究は歴史的に資金不足であること、(3)業界をリードするデータ解析や機械学習などのAWSサービスを利用することにより、大規模なデータセットの処理や分析を素早く繰り返し行えるようになること−をあげている。
そのほか、国内での取り組みとしては、パートナー各社が無償で支援しているサービスをまとめた「日本おうえんプロジェクト」を4月23日からスタートさせた。コミュニケーション/会議システム、医療・福祉、学習支援、業務支援、問い合わせ対応−のカテゴリーに分けてサービスを紹介している。 ◇ ◇ ◇
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<関連リンク>:
ケミカルアブストラクツサービス(COVID-19抗ウイルス候補化合物データセットダウンロードページ)
https://www.cas.org/covid-19-antiviral-compounds-dataset
クラリベイト・アナリティクス(Get the insights you need on COVID-19 のページ)
https://clarivate.com/coronavirus-resources/
エルゼビア(Novel Coronavirus Information Centerのページ)
https://www.elsevier.com/connect/coronavirus-information-center
ダッソー・システムズ(公式ブログ)
https://blogs.3ds.com/japan/biovia-discovery-studio-covid-19/
ダッソー・システムズ(Open COVID-19 Communityのページ)
https://3dexperiencelab.3ds.com/en/projects/fablab/open-covid-19/
シミュレーションズプラス(トップページ)
https://www.simulations-plus.com/
NVIDIA(Parabricks紹介ページ)
https://www.developer.nvidia.com/nvidia-parabricks
NVIDIA(公式ブログ)
https://blogs.nvidia.com/blog/2020/04/06/nvidia-brings-gpu-hpc-ai-expertise-covid-19-battle/
COVID-19 HPC Consortium(トップページ)
https://covid19-hpc-consortium.org/
マイクロソフト(AI for Healthのページ)
https://www.microsoft.com/en-us/ai/ai-for-health
マイクロソフト(新型コロナウイルス関連研究のための助成金申請ページ)
https://ai4hcovidgrants.microsoft.com/
AWS(公式ブログ)
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/a-public-data-lake-for-analysis-of-covid-19-data/
AWS(AWS COVID-19 のデータレイクのページ)
https://dj2taa9i652rf.cloudfront.net/
AWS(公式ブログ)
https://blog.aboutamazon.jp/aws_innovation_covid19_20200320
AWS(日本おうえんプロジェクトのページ
https://aws.amazon.com/jp/partners/nippon-ohen-project/