日本企業を強くする秘訣がB2Bマーケティング
バイインググループを意識したABM、AIをツールとして活用
2023.08.22−「日本企業に欠けている機能はマーケティング。ここを改善すれば日本企業は強くなる」。8月上旬にシンフォニーマーケティング(庭山一郎代表取締役)が都内で開催したカンファレンス「IGC Harmonics 2023」では、B2Bマーケティング従事者(マーケター)がすぐに実践して活用できる学びと、マーケター同士が交流し情報交換ができる刺激の場として有意義なプログラムが実施された。欧米では、企業内におけるマーケターの地位が高く、CMO(最高マーケティング責任者)へのキャリアアップ、さらにはそこからCEO(最高経営責任者)へと上り詰める例もあるという。「マーケターが影響力を持つことでまわりが活性化される」とのことで、マーケターのスキル向上を図ることが戦略上の目標になることが強調された。
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「IGC Harmonics 2023」には45社/80人のマーケターが出席。1日目は事例として、旭化成、サトーホールディングス、クラレ、日立産機システムからの特別講演があり、営業・マーケティングDXに向けた人材育成の取り組み、日本本社主導のグローバルマーケティング体制の確立、新規市場での需要創出に向けたマーケティング活動、ゼロからのマーケティング部門の構築事例−などが話された。
2日目は、シンフォニーマーケティングのアドバイザーを務める米国の著名マーケター、スティーブ・ゴシック氏と、ルス・P・スティーブンス氏の講演、そして庭山代表を交えて会場からの質問に答えるインラタクティブセッションが行われた。
講演の中でゴシック氏は、最新のB2Bマーケティングのトレンドとして、ABM(アカウントベースマーケティング)を取り上げた。MQL(マーケティング活動によってつくられたリード)のうち、収益につながるのは1%だけであり、B2Bの収益の77%は既存顧客から生み出されているという事実を指摘し、「新規顧客の獲得も重要だが、すでに関係が得られている既存顧客にフォーカスしたABMを行うことで、さらなる収益が期待できる」とした。
ABMは、高度にターゲットを絞ってパーソナライズされたマーケティングプログラムを設計し、戦略的なアプローチを実行することで、そのアカウントを刺激しビジネスを促進する−というもの。1990年代にはやったワンツーワンマーケティングと考え方が似ているが、詳細な顧客データに基づいた テーラーメイドのマーケティングを行う点で大きな進歩があるという。
まず、アカウントを構成する複数のターゲットの情報を的確に把握する必要がある。一般に、B2Bにおける購買には3人以上の意思決定がかかわっているという。エンジニアであったり、法務や購買、IT部門などが関係していることがあり、それらを“バイインググループ”として定義し、それに合わせてカスタマイズされた価値提案・製品提案を行う。重要なのはリードの数ではなく質で、営業との高度な連携で成功を刈り取っていく。
ABMの注意点としては、(1)顧客のリサーチを十分に行い、アカウントデータのクオリティを高める、(2)理想的なプロファイルを持つハイバリューの顧客を絞り込み、ターゲットをクリアにする、(3)一般的なコンテンツではなく、各アカウントに合わせたコンテンツを用意する、(4)営業、マーケティング、カスタマーサクセスなどの部門間の協力が重要、(5)長期的な戦略のもとに実施し、早期に結果が出ることを望まない−があげられるとした。
また、ゴシック氏は人工知能(AI)の応用についても言及し、「WWW(ワールドワイドウェブ)が登場した時以来のワクワク感がある。その影響は楽観的に考えている」と話した。予測分析、キャンペーンオートメーション、チャットボットとバーチャルアシスタント、パーソナライズされたコンテンツの作成、ダイナミックプライシングなど、多くのマーケティング業務が自動化される可能性がある。「人間はAIの使い方を学び、AIに指示を出す。いわば実行者(エグゼキューター)から指揮者(オーケストレーター)になる必要がある。AIはチャンスであり、マーケティングの能力を引き上げてくれる。ただ、競合会社も同じAIを使うと考えると、最後は人間の勝負になる。企業はマーケターの育成にこそ投資すべきだ」とまとめた。
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一方、ルス氏はニューヨーク大学をはじめとする各国の大学でマーケティング教育に関する教鞭をとっている。今回は、欧米のマーケターが具体的にいつ・どこで・どのように学び、スキルアップしてCMOになるのか、どのような教材があるかなどを解説し、日本のマーケターのキャリア形成の参考となる講演を行った。
とりわけ、常に戦略的に考えることを強調。客観的な視点で、このマーケティング活動をなぜ行うのか、どのように行うべきか、成功させるには何が必要か、自社の強みはどこにあるのかなどを考えていくといいという。加えて、LinkdInの活用を推しょうした。これは、ビジネス特化型のSNSで、200の国と地域に9億人のユーザーがおり、5,900万以上の企業がLinkdInのページを保有。B2Bマーケターの97%がコンテンツマーケティングにLinkdInを利用しているという。「日本人の多くはLinkdInを使い切れていないので、大きな損をしていると思う。マーケター個人としても、LinkdInに自分のページを持つことを勧めたい」と述べた。
ルス氏によると、欧米ではビジネスの場で名刺を交換することは少なくなり、LinkdInのページを交換し合うことが常態化しているという。営業も、いきなり相手に電話するのではなく、まずLinkdInのページでプロフィールを調べてからコンタクトするようだ。それで、まずはLinkdInで500人とつながることを目標にし、1日のうち10分間をLinkdInでの活動に費やすことが良いとした。
さらに、ルス氏が勧めたのが、シンフォニーマーケティングのIntelligent Growth Club(IGC)に加入すること。B2Bマーケターのためこのほど開始された会員制サービスで、人材育成やリスキリングのための各種プログラムが用意されているほか、マーケター同士の交流や情報交換の場も提供される。また、ゴシック氏やルス氏を含めた専門家からのアドバイザリーサービスを受けることもできる。
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庭山代表を加えた3人で会場からの質問に答えるインラタクティブセッションでは、やはりAI関連の話題に関心が集まった。生成AIでパーソナライズされたコンテンツをつくり出すことで、ABMを大規模に展開できる可能性があるという。ただ、問題はデータであり、社内の信頼できる顧客データで学習した生成AIが登場すると何が起きるか、年内か来年初めにはそれが明らかになると示された。また、議論の中では、コロナ禍で対面の重要性に気づいたことや、人が介在すると安心だという意見がある一方、Z世代の若いバイヤーには人と話したくない傾向があり、必ずしも対面は必要ないとの見方も出された。
議論は百出したが、最終的には「AIはアシスト役であって、やはり人間は必要」、「AIが人間の仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人間がAIを使えない人間から仕事を奪う」といった結論に収束した。いずれにしても、B2Bマーケティングのテクノロジーやツールは激しく変化しても、マーケティングの基本的な理念は不変という考え方で一致したようだった。
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